DIATONE DS-V3000
 


B4Cファンダメンタル。
"Festina lente" ゆっくり急げ、というラテン語の格言があります。数あるオーケストラの楽器のなかでも、
第一に数えられるプリマドンナ(第一番目の女性の意)の声という楽器も、どれほどの芸術的困難を
克服してきたのでしょうか。その卓越した表現力は、他の楽器にくらべ歌詞をもっているということのみにとどまらず、
ソプラノからアルト、プリモウォーモに及んではテノールからバリトン、バスまでといった、広い帯域を表現し、
また、息継ぎひとるにしても、ため息、笑い、呻き、忍び泣きなどといった無限に近いほどのニュアンスを
歌詞から引出しています。オペラ歌手における芸術探求という果てしない道程は、"ゆっくり急げ"という
この黄金律の実践であると言えるでしょう。ひるがえって、スピーカー・システムの場合、人の声という根源的な
楽器の高い音楽性をどこまでリスナーに伝えられるのか。システムの力量のひとつが、これに問われます。
近道のない芸術と、スピーカーづくりの終わりのない道のり。DS-V3000形の開発は、深遠な音楽の表現力に向けての
まさしく一からの挑戦でありました。それをスピーカーづくりの具体的な技術で言い換えるなら、人の声も含めた
楽器の基音、つまりファンダルメンタル帯域を、なめらかに歌う一本のユニットで高密度再生すること。
開発の中核思想がこうして固まり、やがてダイヤトーン技術陣は、ひとつの答えを導き出しました。
それは、すでに高域ユニットや4ウェイ・スピーカーのミッドハイとして実用化されている、
あの振動版の理想といわれるB
4C、ピュアボロンを75cmというかつてない大口径ドームで中域ユニットとして
完成させることでした。 この素材は、ダイヤモンドに次ぐ高比弾性率と非金属であるがゆえの適度な内部損失をもった、
振動板の究極素材。しかしながら、このB
4Cは、2450℃という非常に高い融点を持つため、従来の技術ではドーム形に
成形すること、ましてや75cmの口径にすることなど、机上の空論以外の何者でもなかったのです。
これを克服したのが、ダイヤトーン独自のプラズマ溶射法。15,000℃という高温でプラズマ溶射したB4Cを、
さらに不活性ガス雰囲気中で高温焼成する方法です。 これによりB4C粒子間の結合が強く、空孔の少ない
ピュアボロン・ダイアフラムが完成。膜圧を自由にコントロールできるなど、高精度成形を可能にしたプラズマ溶射法は、
さらに熟成を重ね、はじめてミッドレンジとして類を見ない75mmという大口径の実現に至りました。
4ウェイ・システムにおけるミッドハイ・ミッドバスに匹敵する広帯域再生を獲得し、なおかつ、
音楽のファンダメンタル帯域を一本のユニットで再生できるゆえのなめらかな密度感を得ることに成功したのです。
DS-V3000形では、さらに高域ユニットにも23mmB4Cドームを、低域ユニットには
スーパー・アラミッド・ハニカム振動版を採用し、高い音楽性を誇る中域ユニットを盛り立てます。
そして駆動系には、ダイヤトーン独自の新しい磁気回路理論であるA.D.M.C.-m(Advanced Magnet Circuit-music)
を搭載。実際の音楽波形の磁界解析を通して得られた結果をもとに、入力信号に対する応答性の向上、
過度応答に対する時期回路の動作の安定化、交流磁束に対する時間軸領域での安定化など、
高い次元での純粋駆動を実現しています。プリマドンナの表現する何百種類ともいわれる美しい声の響き、
また声にならない感情の微妙なニュアンスまでも、きわめて忠実に再生するスピーカー・システムの
誕生を目指して。新しい3ウェイの可能性が花開こうとしています。

さて、舞台に微笑むプリマの姿を、このシステムガどこまで歌うことができるのか。
ダイヤトーンが"ゆっくり急いだ"その結実を、あなた自身の耳でお確かめください。


1990年11月に発売しました。
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