YAMAHA CT-7000
¥220,000(1976年頃)
解説
全てに世界最高の特性をマークすることを前提に設計されたFMステレオチューナー。
CT-7000の開発では従来の測定器の限界を超える性能を徹底的に追求するため、まず特別仕様の各種測定器が新たに開発され、従来の測定器では測定できない限界を追求しています。
フロントエンド部には世界で初めて超精密周波数直線7連バリコンを採用しています。アンテナ入力回路をダブルチューンにすることでイメージ妨害、1/2IF妨害、局発2ndハーモニックス妨害特性はSGで測定不可能の120dB以上の値が得られています。これにより相互変調特性、強入力時のブロッキング特性などの多信号妨害特性を大幅に改善しています。
また、RF2段とミキサー段に高周波特性が優れた低雑音のMOS型FETを3個使用し、クロスモジュレーションなどを激減させるとともに実用感度2.0μVを実現しています。さらにRF同調回路とミキサー段の位相特性を改善し、強入力特性と同調周波数による感度・歪率・セパレーションなどの変化を抑えています。
IF段では、低歪率特性と高選択度の両立を実現するために微分利得偏差を±0.2dB以内に抑えたブロックセラミックフィルターを新開発して採用しています。
このブロックセラミックフィルターは従来のセラミックフィルターの特性のバラツキを補正するため、それぞれのフィルター素子の入出力回路にL、C、Rを組合せて調整し、個々の素子の入出力インピーダンスのマッチングをとり、理想に近い優れたフィルター特性を実現しています。
定電流バイアス回路からなるIC使用の高利得7段差動増幅器の優れたリミッター特性とあいまって、CT-7000のIF段は実効選択度85dB以上、キャプチャーレシオ1.0dB以下、AM抑圧比60dB以上、SN比78dB以上という性能を実現しています。
IFの帯域をNormalとWideに切換えられるダブルIF回路を採用しています。
IFの帯域を広帯域に切り換えることにより、電界強度の強い局に対してより低歪率受信が可能となります。
微分利得偏差を最小に抑えたリニアフェーズディスクリミネーターを開発、採用することでブロックセラミックフィルターと広帯域IF段の超低歪率化に対応しています。
特性直視装置によって1台1台の歪率が最小となるよう調整し、直結2段の定電流ドライブ回路を採用することで特性を安定に維持しています。
MPX回路にはヤマハ独自のNFBスイッチング方式を採用しています。
この回路はスイッチング方式平均値復調回路にオーディオアンプと同じようにNFBをかけた方式となっています。このためMPX回路での歪はステレオ信号発生器では測定不可能の優れた値を実現しています。また、この方式は従来のSCAフィルターが不要となり、SCAフィルターによる特性劣化がなく、混変調歪の大幅な改善とともに高域のセパレーションが充分に確保され優れた音質が得られます。
サブキャリア発生回路にはPLLを採用しており、入力パイロット信号に位相を同期させています。また、スイッチング回路に送られる38kHzの信号はDuty比Iの方形波であるため、極めて安定な動作と高セパレーション、低歪率、高SN比の復調が得られます。
PLL回路にはLCによる同調回路のような経年変化や温度変化などの影響がありません。
ヤマハ独自のアクティブローパスフィルターは、19kHzで60dB以上、38kHzで80dB以上という優れた減衰特性となっています。
また、このフィルターはディエンファシス回路も兼ねており、50Hz~10kHzでは±0.3dB、20Hz~15kHzでは+0.5 -1.0dBという値を持ち、高域までクリアな再生音が得られます。
ローパスフィルターや可変出力端子アンプは3段直結回路を採用しています。また、バッファアンプは定電流負荷のエミッタフォロアー回路を採用しており、オーディオアンプ系での歪を無視出来る値まで追求しています。
同調回路にはヤマハ独自の方式を採用しています。
この方式では歪率最小かつセパレーション最大の同調点を維持するため、FMフロントエンドにAFCをかけてFMフロントエンドの周波数ドリフトを25±30℃で15kHz以内に抑えています。
このAFC回路は人体の静電ノイズを利用することで同調ツマミに手を触れて選局している相田は自動的にキャンセルされます。このため強電界局に隣接した微弱な電波も確実に受信でき、引込現象などの心配がありません。
さらにこの機構は選局中に局と同調するとAFC/Stationインジケーターが薄く点灯し、正確に同調をとってツマミから手を離すと明るく点灯し、AFCが動作中であることを表示します。
ミューティング回路はMPX回路の入力段と出力段とに2重にかけ、不快な局間ノイズや離局・選局時のショックノイズをすべてカットしています。
ミューティングレベルは可変式となっており、フロントパネルにレベル調整ツマミを設け、受信する場所の電界強度に合わせて最適のミューティング効果を得ています。また、選局時のノイズをカットする場合、電波の強い局のみを受信する場合などのように目的に応じてミューティングを変えることができ、応用が可能です。
パワースイッチON-OFF時に発生するショックノイズについてもFET使用のミューティング回路を設けてカットしています。
従来のシグナルメーターでは30dB以上の入力でメーター駆動回路が飽和し、正確なメーター指示が困難でした。CT-7000ではメーター回路にAGCをかけることでアンテナ入力レベルに応じて100dBまでリニアにメーターを振らせています。
また、S-M(シグナル-マルチパス)メーターの新方式によって受信している電波の質をモニターすることが可能です。
オートブレンド回路を搭載しています。
アンテナ入力レベルに応じて2段階にブレンド量が変化し、アンテナ入力レベルが小さい時にも周波数特性を損なわずにSN比を改善できます。
マルチパス検出端子を搭載しています。
この端子にオシロスコープを接続して波形を観測しながらFMアンテナの方向を調整することでマルチパス現象の影響が最も少ない方向を正確に探せます。
300Ω平衡と75Ω不平衡の2系統のアンテナ端子を搭載しています。
さらに外部雑音の影響を受けない同軸ケーブル用のコネクターも搭載しています。
ディスクリートFM4チャンネル放送に対オスうるため、ローインピーダンスIF出力端子を搭載しています。
出力端子は固定と可変の2系統を搭載しています。
ヘッドホンアンプを搭載しています。
回路には3段直結SEPP-OTL方式を採用しており、ヘッドホンでも優れた音質が楽しめるよう配慮しています。
イルミネーションスイッチを搭載しており、ダイヤル照明がON-OFFできます。
シーリングパネルには肉厚のアルミ板削り出しを採用しています。
また、キャビネットにはキャストール(栓)によるリアルウッド仕上げを採用しています。
CT-7000では一般に測定されている静的歪特性(高調波歪、混変調歪)だけでなく、実際に使用される音楽信号に近い信号を加えて動的歪を測定する二階堂歪を測定しています。
機種の定格
型式 | FMステレオチューナー |
受信周波数 | 76~90MHz |
実用感度 | IHF Normal:2.0μV Wide:2.5μV DIN Nromal:1.6μV Wide:2.5μV |
S/N比50dBクワイティングレベル | Mono Normal:4μV Wide:4μV Stereo Normal:50μV Wide:50μV |
イメージ妨害比(84MHz) | 120dB |
IF妨害比(84MHz) | 120dB |
スプリアス妨害比(84MHz) | 120dB |
AM抑圧比(IHF) | 60dB |
キャプチャーレシオ | 10μV Normal:2.0dB Wide:3.0dB 1mV Normal:1.0dB Wide:0.7dB 100mV Normal:0.7dB Wide:0.6dB |
実効選択度(IHF) | Normal:85dB Wide:18dB |
相互変調妨害(2MHz) | 100dB |
SN比 | mono:78dB stereo:75dB |
全高調波歪率 | Mono 400Hz Normal:0.06% Wide:0.04% 50~10kHz Normal:0.2% Wide:0.08% Stereo 400Hz Normal:0.06% Wide:0.04% 50~10kHz Normal:0.3% Wide:0.15% |
ステレオセパレーション | 400Hz Normal:50dB Wide:50dB 50~10kHz Normal:35dB WIde:40dB |
周波数特性 | 50Hz~10kHz ±0.3dB 30Hz~15kHz +0.5 -1dB |
周波数ドリフト | SW-ON~2分:±10kHz 2分~:±5kHz ±30℃:±15kHz |
キャリアリーク比 | 70dB |
SCA妨害比 | 70dB |
IF高調波笛音妨害比(50dBμ=300μV入力時) | 60dB |
ミューティングレベル | 3μ~30μV可変 |
ステレオ動作レベル | 3μ~30μV可変 ミューティングレベルと連動 |
オートブレンド動作レベル | I:100μV II:1mV |
アンテナ入力インピーダンス | 300Ω平衡 75Ω不平衡(F型コネクター) |
最大入力電圧 | 300Ω:146dB(20Vrms) 75Ω:140dB(10Vrms) |
出力レベル | Fixed:775mV Variable:2Vmax(-30dB連続可変) |
付属機構 | ミューティング(可変) オートブレンド(2段階動作) AFCタッチスイッチ IF Modeスイッチ Mode メーターディスプレイスイッチ ヘッドホン端子 |
使用半導体 | FET:1個 トランジスタ:108個 IC:7個 ダイオード:33個 ツェナーダイオード:9個 |
使用温度 | -10℃~50℃ |
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz AC100V±15%、45Hz~65Hz |
消費電力 | Illumination on:23W Illumination off:13W |
外形寸法 | 幅436x高さ144.5x奥行352mm |
重量 | 13.0kg |
測定機器 | |
FMSG | MSG 282G(目黒電波計測) |
ステレオ変調器 | MSG 211FS(目黒電波計測) |
歪率計 | 333A or 334A(YHP) |
RC発振器 | VP-722A(松下) |
バルボル | VP-960A(松下) |
ダミーアンテナ | Model100(サウンドテクノロジー) |