YAMAHA PX-2
¥180,000(1979年頃)
解説
PX-1で得られたノウハウに加え、コストと安定性を追加条件に改良を施し、リニアトラッキング方式の完成度を高めたプレイヤーシステム。
リニアトラッキングアームの特長は、水平トラッキングエラーが少なく高調波歪の発生が原理的に少ない事や、インサイドフォースが原理的に発生しないほか、左右対称構造のストレートアームにより動的なラテラルバランスが得られるなどがあります。
リニアトラッキングアームで問題となる、アームを移動させるメカニズムの精度を向上させるため、トラッキングエラーセンサを搭載してます。
トラッキングエラーセンサは、アームの垂直中心軸にスリットのついたシャッタがつけられ、それを挟んで上方にデュアルCdS、下方にLEDが設置された構造となっており、アームが直角の状態からずれた場合には、それに応じた不平衡電圧がCdSに発生します。このフォトセンサは非接触タイプなので、アームの感度を劣化させません。
このCdSに発生した不平衡電圧は、増幅されたのちにアームベース駆動用のDCコアレスサーボモーターに送られ、その回転はプーリーで減速され、アームベースに取り付けられたドライブベルトを駆動します。
また、レコードの偏心に対応するためデッドゾーン(不感帯)が設けられており、音溝の送りが常に内側に向かっている事を利用して偏心の影響を抑えています。具体的には、針先の偏位置にして±0.5mm、トラッキングエラー角にして±0.15゜の偏差でサーボ回路が動作し始め、この値以下では動作しません。
リニアトラッキングサーボはアームが降りている時のみ動作し、アームがアップの時は左右の送り信号でコントロールされます。
アーム駆動用のサーボモーターには、トルクが大きく振動や機械雑音の少ないコアレスモーターを採用しています。さらに、モーターの回転音と振動を低減するため、ネオプレンゴムで包んだ上に、振動吸収力の良いブチルゴムでリアベースから浮かせて固定しています。
モーターからアームベースドライブベルトへはゴムのベルトを介して回転トルクを伝えたり、アームベースがリアベース上を左右に移動する際に、振動を発生しないように滑らかに仕上げたリアベースの表面をSN比の良い3個のプラスチックコントローラで支えて、転がりによる振動を抑えています。
PX-2のストレートアームには、針圧印加用のカウンターウェイトをアームの軸上に取付け前後にスライドさせるスライディングウェイト方式を採用しています。この方式は従来のカウンターリング方式に比べて針圧調整が容易で、正確な調整が可能です。
アームには有効長190mmのショートアームを採用しており、矩形で横長のバランスウェイトの採用や、高剛性材を採用したシェルやパイプなどにより、最適な等価質量を持った剛性の高いアームを実現しています。これにより中音域での共振を抑えるとともにアームレゾナンスが12Hz前後となるため、レコードのソリや偏心に影響されにくいアームを実現してます。
ヘッドシェルにはオーディオ専用の純アルミブロックを高圧油圧プレス機で成形した軽量・小型のヘッドシェルを採用しており、フィンガーフック無しの左右対称構造となっています。
リニアトラッキングアームのベースには、±4mmストロークのハイトアジャスト機構を搭載しており、様々なカートリッジに対応しています。
回転系には起動トルクが大きくトルクむらの無いコアレスホールモーターや慣性モーメントの大きなターンテーブル、FG+クォーツPLLのダブルサーボを採用しています。
回転数の検出は、ターンテーブルの回転に比例した周波数を発生するFG(Frequency Generator)により行われています。これは、ローターと一緒に回転するマグネットに着磁されたパターンをコイルで検出する方式で、このパターンとコイルがモーターの全周に配置されている全周積分型となっています。このため検出される波形が全周で平均化され、検出器自体の偏心や着磁パターンの誤差を受けず精度が向上しています。
このFGで検出された信号は、ピッチ精度20ppmという高精度の水晶発振器の基準信号と位相比較(クォーツロックPLL)され、加速時は正トルクを減速時は負トルクをモーターに加えます。正負両方向サーボとすることで安定性を向上させています。
また、定常回転に達するとクォーツロックしたことを示すインジケータが点灯します。
モーターに採用されたコアレスホールモーターは、ステータの巻線に鉄芯が無く、鉄芯と鉄芯の間の隙間(スロット)が無い新開発のDC4相8極コアレスモーターで、コッギング(磁気吸引力の部分的なトルクむら)が非常に少なく、またコアレスモーターで問題となる起動トルクも1kg・cmと大きくなっています。
ターンテーブルは直径31cmの音響用アルミダイキャスト製で、慣性モーメントは270kg・cm2となっています。
PX-2はアームを動作させるサーボ回路を利用したフルオートマチックコントロール機能を搭載しており、新開発のロジックICによるフルオート機構と、人間工学的に吟味されたマニュアル機構をバランスさせて、スムーズな操作性を実現しています。
電源部には約400mAの定常電流に対して約2.5倍の電流マージンを持った定電圧(24V)電源を採用しています。
キャビネットはPX-1と同一のもので、5mm厚の音響用アルミダイキャストを用い、徹底した防振・重量設計が施されてます。
また、インシュレーターにはスプリングとゴムの複合式のものを採用しています。
ダストカバーには、ハウリングにも強い5mm厚のアクリル製のものを採用しており、1.3kgという重量になっています。
機種の定格
型式 | リニアトラッキングプレイヤー |
<トーンアーム> | |
アーム型式 | リニアトラッキング・ストレートアーム |
サーボ型式 | 光電式トラッキングセンサー+コアレスサーボモーター |
全長/有効長 | 236mm/190mm |
針圧印加方式 | スタティックバランス型スライディングウェイト式 0~2.5g(0.1gステップ) |
針先等価質量 | 針圧比例型 針圧目盛1.0g→16.5g 1.5g→17.0g 2.0g→17.5g (カートリッジ重量は含まず) |
適用カートリッジ重量範囲 | 5g~11g |
最大トラッキングエラー | ±0.15゜(針先偏位換算±0.5mm) |
アームリフタ | オイルダンプキューイング |
アーム高さ調整 | ±4.0mm |
ヘッドシェル | 純アルミ鍛造、8.0g EIA規格プラグイン型金メッキ端子 |
<ターンテーブル> | |
材質 | アルミダイキャスト |
直径/重量 | 31cm/2.1kg(ゴムシート含む) |
慣性モーメント | 270kg・cm2(ゴムシート含む) |
<フォノモーター> | |
モーター | DC4相8極コアレスホールモーター |
駆動型式 | ダイレクトドライブ |
サーボ型式 | クォーツPLL、正負両方向サーボ(電子ブレーキ付) |
起動トルク | 1kg・cm以上 |
ロックイントルク | 450g・cm |
F・G | 全周積分型 |
回転数 | 33・1/3、45rpm(ロックインジケーター付) |
<ケーブル> | |
PUコード | ローインピーダンスNEGLEX2496 二重円筒コード |
抵抗値 | 1Ω以下(カートリッジ~ピンプラグ往復値) |
容量 | 130pF以下 |
<コントロール機能> | |
オートマチック | オートリードイン、オートリターン リピート、オートアップ(パワーoff時) |
サイズセレクタ | 17、25、30cm |
マニュアル | アームアップ/ダウン、カット、2スピードアーム送り(左右共) |
<外装関係> | |
キャビネット | アルミダイキャスト製5mm厚、黒色焼付塗装 |
ダストカバー | アクリル製1.3kg、5cm厚、前面操作タイプ |
ヒンジ | フリーストップ、脱着タイプ |
インシュレーター | スプリング・ゴム複合式 |
<総合> | |
SN比 | 80dB(DIN-B、IEC98A weighted) |
ワウ・フラッター | 0.01%(WRMS、FG直読法) |
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 22W |
外形寸法 | 幅493x高さ156x奥行428mm |
重量 | 17kg |