YAMAHA MC-1X/MC-1S
MC-1X:¥45,000(一体成型、1978年頃)
MC-1S:¥35,000(ユニバーサル型、1978年頃)
解説
振動系に電子ビーム真空蒸着法によるベリリウムテーパードパイプカンチレバーを採用したMCカートリッジ。
MC-1Xでは、ヘッドシェルを含めてアルミダイキャストの一体成型を行い、十分な強度を獲得しています。
また、MC-1SはMC-1Xと全く同じ振動系を持つユニバーサルタイプで、強固なアルミダイキャスト製のハウジングに納められています。
カンチレバーにはベリリウムテーパードパイプカンチレバーを採用しています。
ベリリウムは密度が1.83で、通常カンチレバーの素材として使用されるチタンやアルミなどの軽い金属と比べても2/5~2/3と小さく、しかも剛性がタングステンをしのいで金属中最大となっています。MC-1X/1Sの開発にあたって、LSI製造技術である電子ビーム真空蒸着法をさらに発展させ、さらに高精度化させることにより、今まで成型不能であったテーパをもったパイプ状のカンチレバーをベリリウムで作ることに成功しています。
このベリリウム・テーパード・カンチレバーは、先端0.3mmφ、根元部0.6mmφのテーパーを持つ35ミクロン厚のパイプ状に仕上げられています。
スタイラスには角柱無垢ダイアを使用した特殊楕円形状のものを採用しており、特に固い結晶軸がレコード音溝に当たるように正確に研磨されています。
コイルには円形の空芯コイルを採用してます。
このコイルは、IC製造技術によって70ミクロンのシリコン基板上に軽量で固有抵抗の低いアルミニウムを蒸着したもので、20ターンx2層のラミネート構造に仕上がっています。これにより、自重0.33mgの基板の最外径1.42mmφ、厚さ90ミクロンで、等価質量0.03mgという小ささを実現しています。
また、アーマチュアを兼ねたコイル基板には、極軽量高剛性で音の伝播速度の速い(9000m/sec)純粋シリコンを用いています。十字型支持板に強固に結合されたことで不要共振が殆ど無く、グリスによる制動も全く不要になっているため、グリスの流出や固化といったトラブルから解放されています。
カンチレバーを振動伝達機能に専念させるため、ルートウィング方式を採用しています。
この方式では、カンチレバーの根元に2つのICコイルを90゜に開いた翼状に取り付けています。そしてカンチレバーの根元はまず十字型支持板中央に圧入して固着され、アーマチュアを兼ねたシリコン基板のコイルがその先端に嵌合固定されています。このためカンチレバー中腹にコイルが位置する場合などと違って、カンチレバーの共振モードによる影響を受け難く、等価質量が小さく、かつ、トレースの際のゴミなどによるトラブルからも保護されています。
ダンパーには900μ厚のブチル系ゴムダンパーを用い、カンチレバーを圧入した十字型支持板を適度な深さに埋め込んで結合しています。さらに十字型支持板の4本の腕はダンパーに適度に埋め込まれていることによって、ダンパーとの間でずり制動するという構造となっており、必要な時に必要なだけ利く効果的なダンピングを実現しています。
さらに、振動支点を明確化を期してカンチレバーは特殊ピアノ線でワンポイントサスペンションされており、ピアノ線の後端は太い真鍮製ホルダーで強固に固定されています。
ダンパーのブチル系ゴムは経年・温度変化が極小で、精密な構造と相まって初期性能を長期にわたって維持します。
発電機構にはヤマハ独自の差動発電方式を採用しています。
この差動発電方式は、サマリウムコバルトマグネットによるヨークレス差動磁気回路とラミネート構造のICコイルによる歪が少なく発電効率の良い方式となっています。
磁気回路には片ch当り2組のマグネットを極性を逆にして隣り合せたヤマハ方式ヨークレスデュアル差動磁気回路を採用しています。この差動磁気回路は、シングルに比べて約2倍の発電効率を示すだけでなく、N極とS極が真正面に対抗して均等幅(0.6mm)のギャップを構成するため、コイルの動作領域での磁束はコイルに垂直でしかも磁束密度が均一であり、90゜に開いて隣り合う場合の曲線的で不均等な磁束密度分布に比べてはるかにリニアになっています。
マグネットにはヤマハが開発したエネルギー積が25~30M0eと強力なサマリウムコバルトマグネットを採用しています。
このマグネットの採用によりヨークレスの磁気回路が可能で、磁気回路重量が0.43gと軽量にもかかわらず、コイルギャップでの磁束密度は11,000ガウス以上(P-P)となっています。
コイルリード線には抵抗の少ない極細金線を採用し、しかもリード線は途中をシリコンゴムでボディに固定し、リード線の不要共振を低減しています。
MC-1Xではシェルコネクタ、MC-1Sでは出力端子が金メッキ処理されています。
機種の定格
型式 | MCカートリッジ |
アーマチュア | 空芯、薄膜積層(2層)アルミニウム板コイル |
磁気回路 | ヨークレス、デュアル差動磁気回路 |
変換特性 | 差動方式 |
振動系 | ワンポイントサスペンション方式 |
スタイラス | 0.1mm角ダイアモンド特殊楕円針 |
カンチレバー | 高純度ベリリウム、テーパードパイプ |
振動系等価質量 | 0.25mg |
制動方式 | ざね結合ずり制動方式 |
ハウジングケース | アルミダイキャスト剛体構造 |
出力電圧 | 0.2mV(1kHz、5cm/sec、Peak45゜) |
チャンネルバランス | 28dB以上(1kHz) 25dB以上(10kHz) 20dB以上(20kHz) |
電気インピーダンス | 30Ω±20%(純抵抗性、バランス20%以内) |
再生周波数範囲 | 10Hz~20kHz(能力:60kHz) |
針圧 | 1.8±0.2g |
静コンプライアンス | 38x10-6cm/dyne(25℃) |
動コンプライアンス | 11x10-6cm/dyne(25℃) |
バーチカルトラッキング角 | 20゜±2゜ |
針先 | 8x40ミクロン特殊楕円ダイヤモンド針 |
重量 | MC-1X:18.5±0.1g MC-1S:7.8±0.1g |
交換針 | MC-1X:本体交換(¥31,500) MC-1S:本体交換(¥24,500) |