
VICTOR PST-1000
¥145,000(1966年発売)
解説
グラフィックイコライザーを内蔵したFFシリーズのフラッグシップステレオプリアンプ。
FFシリーズはFull Frequencyの略で、可聴周波数全域にわたり低歪率で原音(入力)を再生する性能を持つ最高級シリーズの名称です。
このアンプは1966年に国立教育会館で行われた生演奏とのすり替え実験に使用されました。
この実験は、音の専門家を含めた1621人を集め、日本フィルハーモニー特別編成の交響楽団による生演奏と、ビクター・ステレオ再生装置によるステレオレコード再生とのすり替え、何人が的中させるかを調べたものです。
演奏中にすり替えの時点を全員投票した結果、的中者はわずか14人しかおらず。実験は成功を収めました。
グラフィックイコライザーで機能であるSEA(Sound Effect Amplifier)システムを内蔵しています。
SEAでは低域から高域までを7分割し、各々の周波数部分で自由に増減可能としたもので、従来のトーンコントロールによる低域と高域のコントロールよりも細かい調整が可能となっています。
また、トーンコントロールのような回転式ノブではなく、直線スライド型コントロールを採用する事で、視覚的にも容易にセット位置を確認できるよう配慮しています。
特に厳選したシリコン・トランジスタ2SC693Fuと、リーケージの小さいカットコアを用いた電源トランスを使用しています。また、SEA基板のSEAコイルにリーケージが作用しないようNi含有パーマロイで二重にシールドしています。
さらに、抵抗にはノイズの少ない炭素被膜抵抗を用い、結合コンデンサには漏洩電流の少ないアルミ電解コンデンサを使うなど、回路素子としてS/Nを悪化しないように留意して設計されています。
これによりハム成分は測定限界以下まで抑えています。
イコライザー回路はLow/Highの2種類のRIAA特性とテープヘッドのNAB特性とを装備しています。
テープヘッドでは19cm/sと9.5cm/sによって特性が異なり、テープヘッド自体の特性からも補償したい場合があるため、NAB特性を中心に高域の周波数特性を半固定抵抗で調整できるようにしてあります。
イコライザー回路のHighレベル入力の場合は1kHzで100mVの大入力でも歪が発生しないよう設計されており、トランス付き20mVの大出力カートリッジの使用も可能です。
回路は随所に3段直結回路を採用しており、十分なNFBをかけ、さらに電源電圧を25Vに選ぶ事で、ノンクリップ5Vの出力を得ています。
SEA部の2dBステップで切換える抵抗器には電子計算機に使用されている金属被膜抵抗を使用しています。
また、SEA部の共振コンデンサには9ミクロンマイラーにアルミを蒸着したメタライズドマイラーコンデンサを採用しています。
電子計算機などで使用されていたテトロンエポキシ樹脂のプリント基板を採用しています。
この基板はテトロン不織布を基材にエポキシで固めたもので、反りやねじれが無く、耐熱性、耐湿性が大きく、電気絶縁性にも優れ、強度が高く、十分な安定性を確保しています。
機種の定格
型式 | ステレオプリアンプ |
出力 | 3V(歪率0.03%以下、10Hz~70kHz) 5V(ノンクリップ、10Hz~50kHz) |
出力インピーダンス | 1.1kΩ |
周波数特性 | Aux、Tuner:10Hz~100kHz +0 -0.5dB Phono(Low、High)、RIAAイコライザー特性:±0.5dB Tape head NABイコライザー特性:±0.5dB(10kHzにて±3dB調整可能) Mic:10Hz~30kHz +0 -3dB |
入力感度/インピーダンス(出力1.5V得るために必要) | Aux、Tuner:170mV/100kΩ(各250kΩ半固定VRにより調整可能) X-tal:120mV/330kΩ Phono high:3mV/100kΩ Phono low:1mV/50kΩ Tape head:1.2mV/350kΩ Mic:2mV/350kΩ |
<SEA部> | |
インピーダンス | 入力:50kΩ 負荷:50kΩ |
入力レベル | 0.2V(スタンダード) |
出力レベル | 0.3V(スタンダード) 3V(最大) |
利得 | 3dB(0dB、フラット位置) |
周波数特性 | 20Hz~20kHz ±0.5dB |
高調波歪率 | 0.05%以下(20Hz~20kHz、0.3V出力) |
S/N(IHFM) | 100dB以上(0dB、フラット位置) |
コントロール範囲 | ±10dB(2dBステップ) |
SEA中心周波数 | 60Hz、150Hz、400Hz、1kHz、2.4kHz、6kHz、15kHz |
SEAコントロール | ±10dB(2dBステップ) |
ランブルフィルター | fc=30Hz以下、-30dB/octでは-46dB |
テープ端子 | Rec out:160mV(出力1.5V) |
DIN端子 | 入力レベル:0.3V(出力1.5V) 出力レベル:22mV |
クロストーク | 50dB以下 |
<総合> | |
S/N比(IHFM) | Aux、Tuner:96dB以上 Phono high:84dB以上 Phono low:75dB以上 Tape head:76dB以上 Mic:76dB以上 ※ASA規格 S1.4-1961のAカーブのウェイティングネットワークを通して測定 |
使用半導体 | 超低雑音シリコントランジスタ:32個 シリコンダイオード:4個 |
電源コンセント | switched:3系統 unswitched:2系統 |
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz(AC117V、220V、235Vに切換可能) |
消費電力 | 3VA |
外形寸法 | 幅480x高さ150x奥行345mm |
重量 | 11kg |