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SONY DAS-R10
¥800,000(1993年頃)
解説
カレントパルスD/Aコンバーターを採用したR10シリーズのD/Aコンバーター。
D/A変換部には新開発のカレントパルスD/Aコンバーターを採用しています。
カレントパルスD/Aコンバーターは電流パルスを用いたシングルビット系のD/Aコンバーターです。D/Aコンバーターではデジタルデータをパルス列に変換していますが、従来のD/Aコンバーターではパルス列を電圧で表現していました。そして、パルスの高さを表す電圧値はコンバーターICに加えられている電源電圧そのものとなります。電源電圧が変動しない場合は問題ないですが、現実には電源電圧は消費電流の変動によって値が変動しており、これに伴ってパルス列の高さもわずかながら変動してしまいます。また、電圧パルスなので演算回路等が発生する電圧ノイズの混入も完全に防止することが難しいという難点を持っており、これらの問題を回避するにはパルスが電圧で表現されている事そのものを見直す必要があります。
DAS-R10に採用されたカレントパルスD/AコンバーターではD/A変換に用いる物理量を電圧から電流へ転換しており、演算回路のノイズの影響を受けない事で音質向上を実現しています。
電流パルスは一本の直流の電流を2つの回路に交互に振り分けることによって作られています。一方の回路に電流が流れた時(パルスがある時)はもう一方がゼロになるという形で互いに反転した正相と逆相のペアの電流パルスが得られます。これにより信号生成の時点から全オーディオ信号経路で完全なバランス伝送が行う事が可能となり、ノイズの影響を低減しています。
カレントパルスD/Aコンバーターでは電源電圧変動が除去される特長によって低音域の表現力も豊かなものとなっています。また電流パルスを電圧波形に変換する新開発の複素電圧電流変換回路(CIV回路)にノイズ除去性能が備わっているため、電圧型のパルスD/Aコンバーターに比べて出力信号のノイズが少なく、後段のローパスフィルターに群遅延特性の良好な低次のものが使えます。さらにCIV回路自身もオーディオ帯域内の群遅延劣化が無いという優れた性能を持っているため、高いS/N比感や定位感、スケール感などに好結果が得られています。
デジタルフィルターにはDSP方式パラレルFIR型デジタルフィルターを採用しています。
従来のデジタルデータでは8倍オーバーサンプリング時には本来のデータを2倍にして中間データを作り、次に出来たデータを2倍にしてといった具合に中間データを作るたびに元のデータとデータの間に新しいデータが埋まっていく方式が採用されていました。このシリアル方式では中間データ生成時点で四捨五入する誤差が生じ、その誤差が演算を繰り返すたびに集積されていくという問題点を持っていました。
DAS-R10では単独でもデジタルフィルターより演算能力の大きいDSPを8個使用し、本来のデータから一気に8倍のデータを作り出す並列(パラレル)型演算回路を用いています。これにより演算誤差を小さく抑えることが出来ています。
カレントパルスD/Aコンバーターを含むアナログ信号経路の全てをICなどの集積回路を用いずにディスクリート部品で構成しています。このためIC化にともなう制約が一切無く、限界まで性能を高められています。
また、ICでは避けられないシリコンサブストレート(シリコン基板)を通じた電源系統からのノイズ混入の恐れがありません。
増幅回路にはメタルコア・モジュールを使用しています。
これは、アルミ合金製のメタルコア(金属基板)に耐熱絶縁処理を施したうえで、銅の回路パターンを形成し、そこに部品を表面実装した構成となっています。メタルコアは基板自身が熱伝導性の良い金属なため、回路全体の熱バランスが極めて良いという特長を持っています。さらに、モジュールに分割したことで外部からの振動に対して強くなっています。また、表面実装用の部品にはリード線が無く、リード線と部品本体の接点が省略できるほか、リード線そのものの振動も排除することが可能です。
デジタル回路部とD/Aコンバーター部分のマザーボードには4層基板を採用しており、信号を最短距離で結び、しかも電源とグランドを全面に展開しています。
このマザーボードへの部品取り付けもメタルコアモジュールと同様に表面実装を積極的に採用しており、信号経路の短縮と部品実装密度の向上を実現しています。
フロントパネルのフィルタースイッチによってDSPの演算プログラムの切換が可能です。
DAS-R10では演算プログラムを演算ブロックの外部に設置したROM(読み出し専用メモリー)から供給しています。ROMは標準モードであるノーマル用のほか、オプションプログラムの書き込まれたものが搭載されており、システムやソースとの相性に応じて切換できます。
機種の定格
型式 | D/Aコンバーター |
チャンネル数 | 2チャンネル(ステレオ) |
周波数特性 | 2Hz~20kHz ±0.5dB(44.1kHz、Filter Normal) |
SN比 | 110dB以上(EIAJ) |
チャンネルセパレーション | 100dB以上(EIAJ) |
全高調波歪率 | 0.003%以下(EIAJ) |
ダイナミックレンジ | 100dB以上(EIAJ) |
アナログ出力 | Unbalanced(ピンジャック):2.5V/50kΩ/負荷インピーダンス1kΩ以上 Balanced(XLR-3-32相当):5V/負荷インピーダンス600Ω以上 |
デジタル入力 | 電気系統 Coaxial(ピンジャック):0.5Vp-p±10%/75Ω Balanced(XLR-3相当):0.5~5.0Vp-p/110Ω BNC(BNCコネクター):0.5~5.0Vp-p/75Ω 光系統 OPT 1/2/3(Toslink):-18dBm(発光波長660nm) OPT 4(STlink):-18dBm(発光波長850nm) TwinLink:-18dBm(発光波長800nm) |
デジタル出力端子 | BNC同軸同期出力 |
同期信号出力 | 44.1kHz |
電源 | AC100V、50Hz/60Hz |
消費電力 | 53W |
外形寸法 | 幅475x高さ140x奥行425mm |
重量 | 約25kg |