
OTTO/SANYO DCA-650
¥63,800(1970年代前半頃)
解説
良い素材を生かし、優れた裸特性の実現を追求したプリメインアンプ。
DCA-650では、fTが高く入力容量の小さな素質の良いトランジスタを使用しています。また、位相補正はプリ~メイン間で1箇所しか使用せず、しかも最小最低値の10pF(通常は50~100pF)に抑えています。さらに、ストレイキャパシティ(浮遊容量)についても可能な限り追放しています。これらの対策によってスルーレイトを改善し、より入力信号に忠実な増幅を可能にしています。
また、録音の悪いソースやソフトで柔らかい音を好む人にも対応するため、スルーレイトの切替機構を搭載しています。
メインアンプ部は初段に差動増幅回路を用いた全段直結・ピュアコンプリメンタリーOCl回路を採用しています。対称性の完璧なペアのトランジスタを選別して使用し、補償も十分に行うことで、申し分の無い直流的バランスを実現しています。
回路的には、深いNFを掛けるためにらゲインを上げる目的で初段の差動回路やドライブ段に挿入されるパスコンがありません。パスコンは、交流的にエミッタをアースに落としてエミッタ抵抗によるローカル負帰還を無くしてしまうもので、こうするとゲインは得られますが回路的には不安定となります。DCA-650では、これらのパスコンを排除してローカル負帰還をかけることで安定性を向上すると同時に、裸特性を伸ばし、fTのさらに高いトランジスタを使用した時と同じ効果を上げています。
この回路の安定度は、ボーデ線図またはナイキスト線図を精密に描くことで0.1Hz以下から10MHz以上の超高域まで詳細にチェックされています。これは、通常のように深いNFを掛けるための準備としてではなく、スルーレイトの改善のため位相補正回路を極小にしてもなお絶対の安定度を得るためのものです。
出力段のピュアコンプリメンタリー回路には40mAという十分なアイドリング電流を流してAB級動作させ、クロスオーバ歪は無視でき、ノッチ歪も極小に追い込んでいます。
NFは、ゲインが低く20kHzまでフラットな裸特性に、35dBと浅めにかけられています。
電源の引き回しやアースポイントの取り方、パターンの描き方に注意を払い、クロストークを極小にすると同時にクロストーク成分が歪んだものとならないように考慮しています。これによりフルパワー時の高域の歪率が大幅に改善されています。
ヒートシンクにはシルバーの大型ヒートシンクを採用しています。
負荷のショートや過電流に対するパワートランジスタ保護用として電流リミッタ回路を搭載しています。
また、スピーカーへのDC電流の漏れがあった場合はヒューズが動作するようになっています。
トランジスタを3個用いた回路によって電源ON時3秒間、電源OFF時1秒間ミューティングが動作します。これにより電源投入時のショックノイズを防いでいます。
プリアンプ部のイコライザ回路は、PNP-NPN-PNPの三段直結方式を採用しているため電圧利用率が高く、終段はエミッタフォロアで出力インピーダンスが低く抑えられています。このためNFによって高域の許容入力が落ちたりしません。また、この回路はRIAA偏差を小さくでき、直流までNFを掛けることが可能です。
回路構成はシンプルなものとなっており、スルーレイトを高めるために8pFという小さな位相補正回路が1つ挿入されています。また、±35Vのに電源で70Vの高圧をかけ、許容入力は400mV(RMS、1kHz)、2880mV(15kHz)という大きな値を達成しています。
終段のトランジスタはキャンケースに収められたT05タイプのPcの大きなトランジスタで、実に500mWに耐えるものとなっています。
イコライザ素子には経年変化や環境変化の少ないものを選別して使用しています。例えばコンデンサはタンタルなどに比べて漏れ電流が皆無で周波数特性も良い特別のマイラータイプを使用しています。
プリアンプ部のトーンコントロールは、二段直結の増幅段の後にNF型のトーンコントロールを搭載し、その後ろに低域のアクティブフィルターが続く構成となっています。
ボリュームは入力インピーダンスの高いところに使用されており、ボリュームのいかなる点でもS/Nが変わらないよう考慮されています。
電源部はメイン部とは独立した巻線で供給されており、+と−独立でそれぞれに2個のトランジスタを用いた電圧検出サーボ型定電圧回路で定電圧化されています。
この回路はリップルフィルタ兼用となっています。
バズ対策として、入力端子のところで高周波的にシャーシに落としています。また、MC型カートリッジを装着した時の不安定化を避けるバッファ回路を兼ねた回路が用意されています。これにより短波放送やアマチュア無線などの妨害をシャットアウトしています。
また、入力回路にループを作らない配線とすることでハムを受け付けないようにしています。
マイクアンプ部はイコライザアンプとほぼ同一の三段直結型となっています。
機種の定格
型式 | プリメインアンプ | ||
<メインアンプ部> | |||
ミュージックパワー | 130W | ||
実効出力(歪率0.1%) | 55W/55W(8Ω、片ch駆動、1kHz) 45W+45W(8Ω、両ch駆動、1kHz) 43W+43W(8Ω、両ch駆動、20Hz~20kHz) |
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高調波歪率 | 0.1%(実効出力時) 0.05%(1W出力時) |
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混変調歪率 | 0.1%(実効出力時) 0.04%(1W出力時) |
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出力帯域幅(IHF、歪率0.5%) | 5Hz~80kHz | ||
周波数特性 | 7Hz~100kHz | ||
ダンピングファクター | 60(1kHz、8Ω) | ||
SN比(IHF-Aネットワーク) | 110dB以上 | ||
入力感度/インピーダンス | 1V/50kΩ | ||
残留雑音 | 0.3mV(8Ω) |
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スルーレイト | 5、10、20V/μs | ||
<プリアンプ部> | |||
入力感度/インピーダンス | Phono1/2:2.5mV/50kΩ Tuner、Aux1/2、Tape PB1/2:140mV/60kΩ Mic:2.5mV/50kΩ |
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Phono最大許容入力 | 400mV(RMS) 1100mV(p-p) |
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Mic最大許容入力 | 500mV(p-p) | ||
SN比 | Phono1/2、Mic:70dB Tuner、Aux1/2、Tape PB1/2:90dB以上 |
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出力レベル/インピーダンス | Tape rec1/2:140mV/1kΩ Tape rec(DIN):35mV/80kΩ Pre out(定格):1.2V/1kΩ |
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高調波歪率 | 0.04%(定格出力時) | ||
Phono RIAA偏差 | 30Hz~15kHz ±0.5dB | ||
周波数特性 | Tuner、Aux、Tape PB:10Hz~60kHz | ||
トーンコントロール |
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サブソニックフィルター | 20Hz、12dB/oct | ||
Lowフィルター | 70Hz、12dB/oct | ||
ラウドネスコントロール | +8dB(100Hz) | ||
<総合> | |||
電源コンセント | スイッチ連動:2系統、150W スイッチ非連動:1系統、200W |
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電源電圧 | AC100V、50H/60Hz | ||
外形寸法 | 幅420x高さ130x奥行330mm | ||
重量 | 10.2kg |