ONKYO GrandSepter GS-1
¥1,000,000(1台、1984年7月発売)
¥1,200,000(1台、1990年代頃)
解説
究極のスピーカーを目指して全く新しい設計・測定の理論によって作られたスピーカーシステム。
グランセプターはオールホーン構成となっています。
ホーン型スピーカーは原理的に過渡特性が良いという特徴を持っていますが、多くの時間領域の歪(マルチパスゴースト歪やリバーブ歪など)があるというデメリットも持っています。オンキヨーでは理論解析によってホーン型は高次の高調波歪が他方式に比べて原理的に非常に少ないことを発見し、ホーン型スピーカーの完全な制御によって理想のスピーカーシステム実現するため、長期間にわたる研究・開発が行われました。
マルチパスゴースト歪やリバーブ歪は必ずしも不快な歪では無いため、音づくりに利用されることもありましたが、グランセプターでは音楽の正しい表現のため、これらの歪も排除しています。
構成
GS-1はサウンドインシュレーターで低音再生ブロックと中高音再生ブロックに分けられています。
低音ブロックは低域ホーン部とバックキャビティ付き低域コンプレッションドライバーユニット部とに分かれています。そして、2つの低域ユニットはそれぞれ40リットルずつの独立したバックキャビティに収められています。
中高音ブロックは音の軸をあわせるために傾き調整回路を備えています。
ウーファー
低域には28cmコーン型ウーファーW3060Aを2個搭載しています。
これらのユニットは実効径23mmのコーンに対して10cm径のボイスコイルを使用し、また、磁気回路には10cmのボイスコイルを駆動するために当時入手可能なもののうち最大の220mm径というマグネットを使用しています。
比較的小口径の振動板と大口径のボイスコイルを組み合わせることで振動板内部の音波のパスを短くし、トランジェントを向上させています。また、大型マグネットで強力に駆動するとともにウーファーの全帯域にホーンロードをかけることでコーンの動きを完全にコントロールしています。
ホーン部はFRP積層ホーンが採用されています。
このホーンはFRPと防振材を積み重ねたサンドイッチ構造となっています。また、フェーズプラグの裏側はドライバーのセンターキャップの形状に合わせて成形されフェルトが貼られています。このホーンの面積の変化については双曲線関数を、形の変化についてはスーパー楕円関数を採用しており、両者の連立方程式をコンピュターで解きながらNC旋盤で削り出す方法で原型を得ています。
トゥイーター
中高域にはホーン型トゥイーターを搭載しています。
ダイアフラムには、ボイスコイルボビンまで一体成型した窒化チタン材による65mm径ダイアフラムを採用しています。また、フェイズプラグはロストワックス法によって超精密整形されており、良好な高域特性を得ています。
ホーンにはダンプドFRP積層ホーンを採用しており、FRPと鉄橋などの防振に使われる防振材を積み重ねることでマルチパス・ゴースト歪やリバーブ残響歪を排除しています。
ネットワーク
ネットワーク回路は2ウェイ構成とし、ネットワークは12dB/octの逆接続構成で、回路による時間の遅れを無くしています。
ネットワーク部分は分散して取り付けられており、相互干渉を低減しています。
エンクロージャー
ユニットレイアウトは、Constant Time Unit Array方式により、ウーファーとトゥイーターの位置関係による時間のズレを排除しています。
エンクロージャーで発生するリバーブ歪を抑えるため、独自の積層構造を採用しています。
一般的なエンクロージャーでは補強によって共振を抑えようとしていますが、補強では共振の周波数が変わるだけでエネルギーは吸収しないため、調整はできても無くすことはできませんでした。
グランセプターでは、ラワン合板と米松単板6枚貼りあわせの7層構造に加え、新開発のダンピング材と鉄板によって拘束することで振動を桁違いに抑えています。
中高域再生ブロックの天板にはガラス板がはめこまれています。
その他
背面の端子板の接続を変えることにより、専用の外部イコライザーを活用したりディバイダー無しでバイアンプドライブを行うことができます。
機種の定格
方式 | 2ウェイ・3スピーカー・オールホーン方式・フロア型 |
使用ユニット | 低域用:28cmコーン型(W3060A)x2 高域用:ホーン型(TW502801A) |
再生周波数帯域 | 20Hz~20kHz |
最大入力 | 300W(EIAJ) |
瞬間最大入力 | 2,000W |
インピーダンス | 8Ω |
クロスオーバー周波数 | 800Hz |
出力音圧レベル | 88dB/W/m 100dB/W/m(外部イコライザー使用時) |
内容積 | 40リットルx2 |
外形寸法 | 幅630x高さ1,060x奥行615mm(サランネット含む) |
重量 | 117kg(Woofer部77kg、Tweeter部40kg) |
試作時の写真
マルチパスゴースト歪を確認する実験に使用されたラジアルホーン。
セパレーターや支柱を取り払い、スロー部の形状が急に変化している部分を滑らかにすることでマルチパスゴースト歪が無くなり、高域が滑らかになるのを確認しています。
マルチパス・ゴースト歪の無いホーンを試作する実験に使用したホーン。断面の面積変化や形状変化、側壁の傾斜の変化がいずれも滑らかであるように設計されています。
スロープ部の形状は円形ですが、それを滑らかに変化させて、途中はスーパー楕円、開口部は長方形にいたるようになっています。指向性、低域反射を計算する式とともにコンピューター上で何百回もの試作が行われ、ホーンの形状が決定されています。
白大理石から削り出されたホーン。
NC旋盤を使って作られており、リバーブ残響歪(音の残響があとを引くことによって起こる歪現象)の起こりにくい材質を探す際に作られました。
他にも、アルミダイキャストや鉄などの各種金属、ラワン・桜などの各種成形材、御影石や大理石などの各種石材、石膏・コンクリートなどの成形材で実際にホーンを作成し、実際に測定して検討が咥えられています。
レジンコンクリート(写真中央)などの高分子複合材料によるホーン。
リバーブ残響歪の起こりにくい材料を求めて実験を重ねる際に作られました。また、強度を上げるため複合リブをホーンの裏側に持つような構造も検討されています。
ダンプドFRP積層ホーン。
FRPと鉄橋などに使われるダンプ材、高速材として鉄板などを重ねた構造の試作品になります。
リバーブ残響歪の起きない材質の最良の組合せを求めて作られた試作ホーン群。
高分子材料の吟味やダンプ材の特性改善、FRPとダンプ材の積層の仕方の変更が行われました。
初期の試作低音ホーン。
このホーンでは、応答の良い低音、時間の遅れの無い低音、制動の良く効いた低音の実現を図っています。
中期の試作低音ホーン。
この時点ではまだ木製のパラボリック・ホーンとなっています。この段階でもフェーズプラグを使うことが決定していました。
最終段階の試作低音ホーン。
理想的ホーンカーブを得るとともにリバーブ残響歪を排除するため、FRP積層ホーンが採用されています。
最終段階のバラックセット。
この段階でオーディオマニアやオーディオ評論家、音楽家、音響学者、スタジオエンジニアの方々の試聴を行い、高い評価を得たそうです。グランセプターの開発室。
オーディオシステム、コンピューター、レコード、測定器、工作機器などが設置されています。