
Nakamichi PA-70
¥380,000(1987年頃)
¥350,000(1989年頃)
解説
STASIS回路を搭載したハイパワーステレオパワーアンプ。
スピーカーを完璧にドライブするという理想を実現するためSTASIS回路を搭載しています。
STASIS回路の最大の特徴は、極めてシンプルな回路でオーバーオールのNFBを排しながらハイクオリティの信号伝送を可能にしたことで、出力から入力へ帰るループが無いため、スピーカーの複雑な挙動にともなう問題から解放され、極めて安定した動作を実現しています。また、一般的なアンプに用いられている発振防止用コイルが不要となるため、全帯域で均一な出力インピーダンスが得られています。
パワーアンプでは、増幅素子はスピーカーのインピーダンスに応じた電流供給を行う必要がありますが、このインピーダンスは音楽再生時には常に変動しているため、出力段の電流供給量も変化します。また、音楽信号のレベルによって電圧が変動するため、この電圧変動に対応した電流供給も行う必要があります。このように電流量が変化すると、出力段の増幅素子はどうしても増幅率が変化し、リニアな電圧増幅が行えなくなり、歪が発生してしまいます。このため、NFBや他の歪改善技術のような帰還方式に頼らずにリニア伝送を行うには、増幅素子の増幅率の変動そのものを抑える必要があります。
STASIS回路では、電流変動を抑えた条件下で電圧増幅を行うSTASISセクションと、スピーカーが要求する電流を供給するカレントミラーブートストラップ部との2部構成の出力段によってスピーカーをパラレルにドライブするという構造を採用しており、この問題を解決しています。
スピーカーへの電流供給を行うカレントミラーブートストラップ部は、コレクタフォロワーのため、STASISセクションに対してインピーダンスが非常に高く設定されており、電圧をコントロールする力は殆どありません。このため、信号伝送のクオリティに対する影響は無視できるほどになっています。その代わりに、スピーカーのインダクタンス成分に対しては安定した動作を約束しており、しかも効率の良いAB級動作でトランジスタの能力を生かすことで大電流供給能力を得ています。
STASISセクションでは、カレントミラーブートストラップ部のノンリニア歪を補正するよう、純A級動作を保ちながら僅かなパワーで動作させており、トータルのクオリティをコントロールしています。
これらの構成によって、様々なスピーカーを制御できる圧倒的なドライバビリティを獲得しています。
STASIS回路のポテンシャルを生かすために余裕のある出力段構成を採用しています。
PA-70では32個のパワートランジスタを使用しており、このうち片チャンネルあたり2個ずつが純A級動作の電圧増幅段であるSTASISセクションに用いられ、それ以外は電流供給セクションであるカレントミラーブートストラップ部を構成しています。
この電流供給セクションは、Pc(コレクタ損失)130Wという大出力トランジスタを片チャンネルあたり7パラレルプッシュプルで使用しています。しかも、伝送ロスの少ないコレクタフォロワーで接続したことで、ピーク50Aという優れた電流供給能力を保証しています。
また、使用トランジスタには高速応答性を誇るLAPT(マルチエミッタ・パワートランジスタ)素子を使用しており、高いリニアリティとハイスピード化を図っています。
NFBは電圧増幅段単体にごくわずかにかけられており、オーバーオールのループを持たないため、発振防止用の出力コイルが不要となっています。これにより高域まで可聴帯域全般で均一の出力インピーダンスを実現しています。
電源部には700Wの大型電源トランスを採用しており、S/N比を向上させるとともに、リーケージフラックスの少ないトロイダル方式をとっています。また、トランスの周囲には珪素鋼板による磁気シールドが施されています。
フィルターコンデンサーはトータル132,000μFの大容量となっています。特に高周波インピーダンスを改善するため、両極ともに高純度アルミ箔を固くまいたものを使用しています。また、端子にはアルミ無垢材を使用し、端子とアルミ箔の接続方法にも音質的な配慮が加えられています。さらに、誘電体である酸化皮膜は音質的に有利な化成方式を採用し、電解液にも高速・低歪タイプで温度安定性に優れたものを使用しています。
聴感テストを何度も繰り返して吟味したパーツを採用しています。
まず、音質の影響が大きい部分の抵抗はすべて、温度変化に対して特性が極めて安定な金属皮膜抵抗を使用しています。そして、コンデンサーも音質を十分に吟味して選定しており、特に重要な部分にはフィルムコンデンサーを使用しています。このフィルムコンデンサーは、誘導損失が小さいポリエステルをフィルム素材としており、これを低速・高張力で固く巻き、シワやストレスを防いでいます。また、外部からの影響を防止するため、アルミケースに黒色エポキシを充填してシールド/振動対策を実施しています。
信号系および電源部の配線には米国モンスターケーブル社製の極太内部配線用ケーブル"モンスタースペシャル"を使用しています。さらに保護ヒューズの材質にも配慮がされており、ヒューズ線を収縮率の少ない銅合金とするとともに、ヒューズ管全体をセラミックパウダーで固めて振動を防止しています。
金メッキスピーカー端子にはバインディングポストタイプを採用しています。
また、入力端子にも金メッキ処理を施し、経年変化を抑えています。
信号伝送回路とは別に、動作状態を常時モニターする保護回路を左右それぞれ独立して装備しています。
これにより音質に悪影響を与えずに大電流供給能力と安全な動作を両立させています。
電源ON時に流れる大量の電流からトランスやブレーカーを守るインラッシュカレントリミッターを装備しています。
極性表示付きの無酸素銅線極太電源コードを採用しています。
機種の定格
型式 | ステレオパワーアンプ |
定格出力(新IHF) | 330W+330W(4Ω、両ch駆動、20Hz~20kHz、0.1%THD) 200W+200W(8Ω、両ch駆動、20Hz~20kHz、0.1%THD) |
ダイナミックパワー | 550W(4Ω、片チャンネル当り) 300W(8Ω、片チャンネル当り) |
ダイナミックヘッドルーム (新IHF) |
2.2dB(4Ω) 1.7dB(8Ω) |
パワーバンド幅 | 5Hz~50kHz(100W、0.1% THD) |
ダンピングファクター(新IHF) | 60以上(20Hz~20kHz) |
入力感度/インピーダンス (新IHF) |
2.0V/75kΩ(定格出力) 140mV(1W出力) |
周波数特性(新IHF) | 20Hz~20kHz +0 -0.5dB(1W) 7Hz~150kHz +0 -3dB(1W) |
S/N比(IHF A-WTD) | 120dB以上(入力ショート、定格出力) |
残留ノイズ(IHF A-WTD) | 25μV以下 |
全高調波歪率 | 0.1%以下(定格出力、20Hz~20kHz) |
混変調歪率 | 0.1%以下(定格出力、60Hz:7kHz=4:1) |
ステレオセパレーション (入力ショート) |
110dB(100Hz) 100dB(1kHz) 80dB(10kHz) |
出力トランジスタ数 | 16個(片チャンネル当り) |
最大出力電流 (片チャンネル当り) |
18A連続 50Aピーク |
電源部 | 700Wトロイダルトランス 132,000μF電源フィルターコンデンサー (33,000μFx4) |
電源 | AC100V、50Hz/60Hz |
消費電力 | 最大840W |
外形寸法 | 幅435x高さ200x奥行421mm |
重量 | 約27kg |