Accuphase M-100
¥500,000(1台、1981年7月発売)
解説
スピーカーを理想駆動するため、"オープンループの出力インピーダンスが低い事"と"大電流供給電源と出力段"を重視し、パワーアンプの理想を求めて開発されたモノラルパワーアンプ。
出力段はPc(コレクタ損失)200Wの広帯域バイポーラトランジスタを12パラレル・プッシュプル(合計24個の出力トランジスタ)で構成しています。これにより全電力キャパシティは4.8kWとなり、充分な余裕を得ています。
出力トランジスタは、放熱効果を良くするため、二組に分けて左右の大型ヒートシンクに取り付けられています。両方のヒートシンクは熱結合されていないので、熱的にアンバランスになるとその傾向が加速され、一方だけが過熱して素子の破壊へと発展します。このような熱的アンバランスを防止するため、バイアス・バランス回路を採用しています。この回路は、出力素子のベースに接続された素子を相手方のヒートシンクに取り付けて温度を検知し、バイアス電流をコントロールする構造となっており、互いにほぼ同一の温度とすることで安定した動作をしています。
ドライブ段はアキュフェーズのオリジナルである電力増幅用MOS FETで構成されており、低インピーダンス大電流駆動を行い、併せて高域の特性を大幅に改善しています。
また、熱特性がバイポーラトランジスタを安定化させる方向に働くので出力段のバイアス電流が安定します。このため出力段のエミッター抵抗を低くする事が可能で、さらに12パラレルにより等価エミッター抵抗は1/12と低くなり、出力トランジスタのバイアスがカットオフするために発生するスイッチング歪が殆ど無くなっています。
プリドライブ段はカスコード接続プッシュプルで構成されており、ミラー効果の無い優れた高域特性と大振幅動作を両立させています。
また、24個の出力素子に比較的大きなバイアス電流を与え、出力5Wまでは純A級動作領域になっています。
回路はアキュフェーズの伝統的な全増幅段プッシュプルで構成しており、オープン・ループの諸特性を限界まで改善しています。
入力はデュアルFETで受けており、カスコード・ブートストラップ差動プッシュプル構成を採用しています。カスコードブートストラップにより大きな利得を得ると共に高域特性を改善し、入力インピーダンスの上昇(入力レベル・コントロールの変化)による歪の増加を防止しています。
デュアルFETによるプッシュプル入力回路によって入力に直流が発生せず、入力コンデンサーを取り去ることができています。しかし、この状態ではDC漏れの大きいプリアンプを接続した際に出力にDCが発生してしまい、スピーカーに悪影響を及ぼします。
M-100ではDCサーボ・アンプで直流帰還をかけて直流を遮断するとともに、回路内で発生するDCドリフトも抑えています。
デジタル方式によるピークパワー直読装置を世界で始めてパワーアンプに搭載しています。
この回路では、アンプの出力信号をレンジ切替えスイッチ(アッテネーター)で読みやすい倍率に変換し、ピーク検波器に入力しています。ここで+側、−側の波形を全て+側の方に揃え、次のステップで信号のピーク値を保持し、そのピーク値を12bitのA/Dコンバーターに送り込みデジタル信号に変換します。デジタル信号は4bitマイクロプロセッサーに入力され、マイクロプロセッサーで電圧を電力に換算し、一定時間内のピークを選択肢、LEDに表示させます。
また、ホールド時間の設定や新たにホールドを開始するリセット信号を発生したり、レンジ切り替えの信号や表示範囲がオーバーしたことを知らせる信号もマイクロプロセッサーから出力しています。
レンジ切り替えはx1、x0.1、x0.01、x0.001の4つで、これにより0.001W~999W間を3桁の数字で直読できます。
ホールドタイムは0.5秒、3秒、30分の3種類で、30分レンジを使用すれば、レコード片面のピーク値を読むことができ、テスト・レコードの基準信号と比較することで、最大カッティングレベルを知る事ができます。
デジタル表示の他に、dBとワット値で出力を監視できる外磁型精密大型メーターを搭載しています。
対数圧縮型で-60dB(0dB=500W、-60dB=0.0005W)までを読み取る事ができます。
通信機用25接点ロータリースイッチと高精度金属被膜抵抗による本格的なステップ式アッテネーターを搭載しています。
0~-20dB間1dBステップ、以後-23dB、-26dB、-30dB、-∞を±0.1dBという精度で選ぶ事ができます。
低域の不要ノイズをカットするローフィルターを搭載しています。
カットオフ周波数はサブソニック領域の10Hz、17Hzと、業務用で威力を発揮する30Hz、50Hzの4種類を選択できます。また、スロープ特性はいずれも-12dB/octです。
これらの切り替えは基板回路内にそれぞれの周波数専用のリレーを取り付け、フロントパネルのスイッチでこのリレーをコントロールしています。
入力信号に対して出力信号の位相を反転させるフェーズ・スイッチを搭載しています。これによりチャンネル間の位相合わせが可能です。
また、一つのチャンネル当り2台のM-100を使いブリッジ接続を構成し、8Ω負荷1.6kWにパワーアップすることができます。
複数のM-100を使用する場合に、デジタルディスプレイのホールド開始タイミングがずれてしまいます。
これを同期させ同時スタートさせるための同期信号端子を搭載しています。これによりデジタル・ディスプレイと共に電源ON-OFF時の出力回路のリレーのタイミングも合わせることができます。
コネクター付の1.5mのケーブルが付属しており、別売りで5mのケーブルもあります。
入力端子は通常のフォノ・ジャックの他に業務用のキャノン・タイプ・コネクターも搭載しています。
放熱効果の悪い場所に設置する場合や、長期にわたって大出力駆動を行う場合に最適な放熱用ファンが別売りであります。
ファンはリアパネルに取付が可能です。
24mm厚のパーシモン仕上げのウッドパネルが別売りであります。
機種の定格
型式 | モノラルパワーアンプ | ||||||||||||||
連続平均出力 (20Hz~20kHz、歪率0.01%) |
1000W(2Ω) 800W(4Ω) 500W(8Ω) 250W(16Ω) |
||||||||||||||
全高調波歪率 | 0.01%(2Ω~16Ω、0.25W~連続平均出力間、20Hz~20kHz) | ||||||||||||||
IM歪率(EIA) | 0.003% | ||||||||||||||
周波数特性 | 20Hz~20kHz ±0dB(連続平均出力時、レベルコントロールMAX) 0.5Hz~400kHz +0 -3dB(1W出力時、レベルコントロールMAX) 0.5Hz~140kHz +0 -3dB(EIA、1W出力時、レベルコントロール-6dB) |
||||||||||||||
ゲイン | 28dB | ||||||||||||||
負荷インピーダンス | 2Ω~16Ω | ||||||||||||||
ダンピングファクター(EIA) | 300(50Hz、8Ω) | ||||||||||||||
入力感度/インピーダンス | 2.6V/20kΩ(連続平均出力時) 0.12V/20kΩ(EIA、1W出力時) |
||||||||||||||
入力レベル調整 | ステップ式アッテネーター アッテネーション:0~-20dB間1dBステップ、-23dB、-30dB、-∞の25接点 誤差:±0.1dB以内 |
||||||||||||||
S/N(A補正) | 130dB(連続平均出力時、入力ショート) 100dB(EIA、1W出力時、入力1kΩ) |
||||||||||||||
ローフィルター | 10Hz/17Hz/30Hz/50Hz、-12dB/oct | ||||||||||||||
出力メーター | 対数圧縮ピーク指示型、-60dB~+3dB及び出力直読目盛 | ||||||||||||||
デジタルパワーディスプレイ |
|
||||||||||||||
使用半導体 | トランジスタ:57個 FET:5個 IC:21個 ダイオード:65個 |
||||||||||||||
電源電圧 | AC100V/117V/220V/240V、50Hz/60Hz | ||||||||||||||
消費電力 | 175W(無入力時) 490W(電気用品取締法) 780W(8Ω負荷500W出力時) |
||||||||||||||
外形寸法 | 幅480x高さ232(脚含む)x奥行476mm | ||||||||||||||
重量 | 41.5kg | ||||||||||||||
付属 | タイミング・ケーブル(1.5m) | ||||||||||||||
別売 | サイドウッド A-14(取付金具付一式、¥16,000) 放熱用ファン O-81(一式、¥8,000) タイミング・ケーブル TC-11(10m、¥3,000) |