YAMAHA CR-1000
¥180,000(1974年頃)
解説
ヤマハの技術を投入して開発された最高級FMレシーバー。
メインアンプ回路には差動増幅2段による全段直結ピュアコンプリメンタリーOCL方式を採用しています。
多くの実験とコンピューターによる回路解析(CAD手法)を経て決定された位相補正回路によって超低域から超高域まで高い安定度を実現し、充分な負帰還をかけています。
さらに、定電流特性を持つFETをバイアス回路に使った初段差動アンプやトランジスタによるバイアス安定化回路によって電源投入直後から安定した動作状態に入ります。
電源回路にはレギュレーションの良い大型パワートランスを採用しています。
大電流を必要とするパワートランジスタとドライブ用トランジスタには、サージ電流250Aの余裕ある整流ダイオードと10,000μFx2の大容量コンデンサーによる整流回路から電圧を供給しており、他の全回路は定電圧電源回路で駆動することで安定した動作を可能にしています。
パワートランジスタ用とスピーカー用の2段保護回路を内蔵しています。
パワートランジスタの保護は、ASO(安全動作領域)をオーバーした場合にそれを検出して入力を制限するリミッター方式を採用しており、過負荷などで保護回路が作動している間も出力が減少するだけで再生が中断されません。
また、スピーカー保護回路はヤマハ独自の回路方式を採用しており、出力端子の直流電圧が±2Vを越すとリレーが働き、スピーカーへの信号経路を遮断します。この回路は電源ミューティングも兼ねており、パワースイッチON/OFF時のショックノイズを防いでいます。
イコライザアンプ部は、初段に特性の良く揃ったFETをペアで採用し、さらに出力段をトランジスタによるA級SEPP方式で構成した直結アンプとなっています。
FETはトランジスタに比べて雑音特性に優れているため、S/Nや歪率を大幅に向上することができます。また、この回路はシングルで使った場合に比べて2次歪を大きく改善できるという利点を持っています。さらに、出力インピーダンスを低くとれるSEPP出力段や+50Vの高い供給電圧も相まって、ダイナミックマージンも定格3mVに対し1kHz、歪率0.1%で最大許容入力280mVrmsを実現しています。
イコライザー素子には±1%精度の蒸着金属被膜抵抗と、±1%、±2%精度のスチロールコンデンサーを組み合わせて構成しており、高い精度を実現しています。
Phono1回路はリアパネルのスイッチによって入力インピーダンスを3段階に切換え選択できます。
トーンコントロール回路には3段直結アンプを用いたNF形・CR形混合のヤマハ方式を採用しています。
この方式はブースト、カット、フラット時ともに特性が素直で、さらにローノイズトランジスタの厳選使用や雑音留意の設計も相まって残留雑音を少なく抑えています。
調整ボリュームにはクリックストップ式のスライドボリュームを採用しており、Bassは約3dBステップ、Trebleは約2dBステップとなっています。また、スイッチ切換えによってターンオーバー周波数をそれぞれ2段階に切換えできます。ターンオーバー切換えスイッチ中央はディフィートポジションとなっており、このポジションではトーン回路はフラットアンプとして動作します。
フィルター回路には3段直結アンプを採用しています。
ローフィルター、ハイフィルターともにカットオフ周波数を2段階に切換え選択できます。
ラウドネス回路にはコンティニュアスラウドネスコントロールを採用しています。
この回路ではラウドネス量が自由に変化できるように設計されており、リスニング環境を基準として最適な補正が可能となっています。ボリュームでセットした基準の音量レベル点(ラウドネス調整ツマミ:FLAT)から-20dBレベルダウンした点(ポジション10)まで低域と高域を補正しながら音量を下げていく事ができます。
チューナーの諸特性は入力依存性が大きいと受信電波の強弱によって不安定になりやすくなります。そこで、CR-1000では入力依存性を最小に抑えるためFMフロントエンドとIF段の位相特性を重視した設計を施す事で高い安定度を実現し、入力レベルの変化によるステレオ受信時のセパレーションや歪率の劣化を抑えています。
FMフロントエンドには周波数直線型5連バリコンと低雑音デュアルゲートMOS FETを採用し、3つの同調回路を集中させたトリプルチューン方式の回路構成によって優れた混変調特性を実現し、各種妨害排除特性も向上しています。
また、周波数直線型5連バリコンを採用したことで、ダイヤルスケールの周波数目盛に対するトラッキング誤差も殆どありません。
FM IF段にはICを用いた7段差動アンプと6素子セラミックフィルターを採用しており、リニアな位相特性とスカート特性の良いバンドパス特性を得ています。
FM MPX回路は、トランジスタスイッチング方式平均値復調回路に低周波回路と同様にNFBをかけることで超低歪率化を図った新方式を採用しています。この方式では従来のSCAフィルターが不要となるため位相特性の乱れが無く、高域のセパレーションも十分に確保されクリアな受信を可能にしています。
また、ビート妨害やSCAバンドからの影響も受けにくく、MPX回路の高調波歪や混変調歪が大きく改善されています。
チューナー部の動作を常に安定に保つためAFC回路を搭載しています。
このAFC回路は人体の静電ノイズを利用した独自の同調機構によってチューニングツマミに手を触れている間は自動的にOFFとなります。このため、電波の弱い局も選局できます。
選局中に局と同調するとAFC/STATIONインジケーターが薄く点灯し、ツマミから手を離すとインジケーターが一段と明るくなってAFC回路がONになった事を確認できます。
ダイナミックレンジの大きいシグナルメーターを採用しています。
従来のシグナルメーターでは一定の入力レベル以上になるとメーター駆動回路が飽和し、メーターは同じ値を示して正確な指示が困難でした。CR-1000ではメーター回路にAGCをかけることで弱電界から強電界までリニアに指針を振らせているため、入力電波のおよその電界強度を確認することまでできます。
FM MPX回路の入力段と出力段とにミューティングを2重にかけることで局間ノイズや離調時・選局時のショックノイズをカットしています。さらに、ミューティングレベルはフロントパネルのスライドボリュームによってアンテナ入力の10μV~50μVまでコントロールできるため、受信地の電界強度に合わせて最適なミューティング効果を得る事ができます。
FMアンテナ端子は300Ω平衡型と75Ω不平衡型の2系統を搭載しています。
また、外部雑音の影響を受けない同軸ケーブル用のコネクター端子も搭載しています。
マルチパス端子を搭載しており、ビルなどに電波が反射して直接波と干渉することで音質やセパレーションが悪化している場合に、オシロスコープで波形を観測しながらマルチパス現象の最も少ない方向を探し出せます。
また、CR-1000のTape PB端子と接続して簡単な調整をすることもできます。
ディスクリート4チャンネル放送に備えてアダプター用のIF出力端子を搭載しています。
FM Stereo、AFC/Station、Powerの各インジケーターにはLEDを採用しています。
専用マイクアンプを内蔵しており、マイクミキシングが可能です。
2系統のテープ端子を搭載しています。また、スピーカー端子も2系統搭載しています。
プリアンプ部とメインアンプ部を分離して仕様できます。
スライドボリュームとレバースイッチを全面的に採用した独特のデザインを採用しています。
また、シルバーヘアライン仕上げのフロントパネルとキャストール仕上げのキャビネットを用いたデザインとなっています。
機種の定格
型式 | ステレオレシーバー | ||
<オーディオ部> | |||
実効出力(歪率0.1%) |
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ダイナミックパワー | 200W(IHF、8Ω) | ||
全高調波歪率(20Hz~20kHz) | 0.1%以下(実効出力時) 0.04%以下(1W出力時) |
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混変調歪率(70Hz:7kHz=4:1) | 0.1%以下(実効出力時) 0.05%以下(1W出力時) |
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パワーバンド幅(IHF、歪率0.5%) | 5Hz~50kHz | ||
周波数特性 | Main in:10Hz~100kHz +0 -1dB Phono(RIAA偏差):30Hz~15kHz ±0.2dB Aux、Tape PB:10Hz~50kHz +0.5 -1dB |
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ダンピングファクター | 70(1kHz、8Ω) | ||
出力端子 | スピーカー端子:A、B ヘッドホン端子:4Ω~16Ω |
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入力感度/インピーダンス | Phono1、2:3mV/30kΩ、50kΩ、100kΩ Mic:3mV/50kΩ Aux1、2、Tape PB A、B:150mV/40kΩ Main in:775mV/40kΩ |
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最大許容入力(1kHz) | Phono:280mVrms Mic:450mVrms |
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出力レベル/インピーダンス | Rec out A、B:150mV/2kΩ Pre out:775mV/2kΩ |
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トーンコントロール | Bass:±15dB(50Hz) ターンオーバー周波数:250Hz、500Hz Treble:±10dB(10kHz) ターンオーバー周波数:2.5kHz、5kHz |
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フィルター | Low:20Hz、70Hz(12dB/oct) High:6kHz、12kHz(6dB/oct) |
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ラウドネス | 等ラウドネスカーブに準ずるコンティニュアスラウドネス | ||
S/N(IHF、Aネットワーク) | Main in:100dB以上 Phono:80dB以上 Mic:70dB以上 Aux、Tape PB:90dB以上 |
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<FMチューナー部> | |||
受信周波数 | 76MHz~90MHz | ||
実用感度(IHF、84MHz) | 1.7μV | ||
イメージ妨害比(84MHz) | 110dB | ||
IF妨害比(84MHz) | 110dB | ||
スプリアス妨害比(84MHz) | 110dB | ||
AM抑圧比 | 55dB | ||
キャプチャーレシオ | 1.0dB | ||
実効選択度(IHF) | 80dB | ||
S/N | 75dB | ||
全高調波歪率(400Hz) | mono:0.15% stereo:0.3% |
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ステレオセパレーション(400Hz) | 45dB | ||
周波数特性 | 50Hz~10kHz ±0.5dB | ||
サブキャリア抑圧比 | 60dB | ||
ミューティング信号レベル | 10μV~50μV連続可変 | ||
IF outレベル/インピーダンス | 400mV/1kΩ | ||
<総合> | |||
使用半導体 | IC:2個 トランジスタ:98個 MOS FET:2個 FET:10個 ダイオード:56個 ツェナーダイオード:5個 LED:3個 |
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ACアウトレット | switched:2系統、max200W unswitched:2系統、max200W |
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電源 | AC100V、50Hz/60Hz | ||
定格消費電力 | 250W | ||
外形寸法 | 幅510x高さ174x奥行335mm | ||
重量 | 19.0kg |