VICTOR T-X55
¥52,800(1982年発売)
解説
基本性能を高めつつマイクロコンピューター制御コントロールシステムによって操作性向上を図ったFM/AMチューナー。
フロントエンドのミキサー回路には世界ではじめてガリウム・ヒ素(GaAs)FETを採用しています。
ガリウム・ヒ素FETは、一般的なシリコンMOS・FETに比べて電子の移動速度が約6倍も速いうえに浮遊容量が殆ど無いという広帯域・高リニアリティ素子となっています。これをRF相互変調と呼ばれる妨害信号が発生しやすいミキサー回路に用いることで、感度を損なわずに妨害排除能力を向上させています。
また、RF相互変調はミキサー回路の前段にある同調回路の選択度を上げることでも低減できます。シンセサイザーチューナーではこの部分の選択度を決める素子としてバリキャップ(可変容量素子)を用いますが、T-X55ではここにも新開発の高耐圧ハイQバリキャップを採用しており、従来のシングル型バリキャップに比べて選択度を大幅に高め、妨害を発生しやすい大入力時のリニアリティも向上させています。
さらに、銅フレームの採用や発振トランジスタのローノイズ化、バッファー回路の挿入などでローカル・オシレーター回路のSN比や歪率も改善しています。
FM・SENS機能を搭載しており、RFゲインの3段切換えができ、相互変調妨害を効果的に抑制できます。
FL(蛍光管)表示系の点灯ノイズによる悪影響を排除するため、独自のスタティックドライブ点灯を採用しています。これにより表示系からのノイズを取り除き、SN比を改善しています。
さらに、T-X55ではもう一つのノイズ源であるマイクロコンピューターのキー入力部をスタティック化することでノイズの発生を低減しています。
従来のシンセサイザーチューナーでは、マイクロコンピューターが数μsecごとにFMとAMの区別やステーションナンバーなど入力キーのセット状態を確認しながら動作しており、確認のたびにパルス的なノイズを発生させていました。
T-X55では、大型マイコンが自身のメモリー回路に記憶する方式を採用しており、キーの状態確認を一回で済ませることでノイズを抑えています。
コンピューターコントロールシステムによって操作性向上を図っています。
この回路では、希望局の電界強度と上下に隣接する妨害波の有無およびその電界強度を約200msecの間に検出します。そして、電波の状態にあわせてチューナーが最も適切な条件で動作するように、FM・SENS(RFアッテネーター)、IF帯域幅、QSC(クワイティング・スロープ・コントロール)を自動的にセットしています。例えば、入力オーバー時にはミキサー回路と高周波増幅回路にそれぞれ-10dB、-15dBのアッテネーターが挿入され、1dBステップの精密電界強度検出に基づいて-10dBまたは-25dBまでレベルを下げながら最良条件で信号の受け渡しが行われるようにコントロールします。また、強い隣接妨害がある時にはIF帯域幅を狭くして選択度を高めます。
これらの操作は手動切替でもできます。QSCは弱電界のステレオ受信時にノイズレベルを約6dB低減する回路ですが、9.5kHzのビートノイズをカットするアンチバーディフィルターとともに切換動作が自動化されています。
IF回路には位相特性の優れたリニアフェイズセラミックフィルターを搭載しています。さらに、新Quadrature検波回路で検波出力レベルやリニアリティを高めるなど、トータルに低歪率・高S/N化を図っています。
オーディオステージにはDC構成を採用しています。
FM/AM各8局のプリセットメモリーを搭載しています。
メモリーセットは通常のマニュアルプリセットに加えて、自動スキャンによるオートメモリーも可能です。特にFM時にはコンピューターコントロールシステムが働き、感度、IF帯域幅、QSCが全て最適モードにセットされたうえでメモリーされます。
タイマーとテープデッキを併用することで、FM/AMランダムに6局までのプログラム録音が可能です。この場合、プログラムされた局の順序をあらかじめモニターしておくことも可能です。
AMチューナー部にはダブルバランス型AMミキサーを採用しており、高感度・低インピーダンスのループアンテナや音質切換スイッチとあいまって、ハイクオリティなAM受信を可能にしています。
周波数ディスプレイではスイッチ切換によって電界強度を表示できます。
333Hzレコーディングキャリブレーターを搭載しています。
AMループアンテナには着脱式を採用しています。
機種の定格
型式 | FM/AMチューナー |
<FMチューナー部> | |
受信周波数 | 76.0MHz~90.0MHz |
50dBクワイティング感度(75Ω) | mono:1.8μV/16.4dBf stereo:9.8μV/31.0dBf(QSC Auto) |
実用感度(75Ω) | 0.95μV/10.8dBf |
SN比(IHF-A) | mono:88dB stereo:82dB |
全高調波歪率(1kHz) | mono:0.06% stereo:0.06% |
キャプチャーレシオ(IHF) | 1.0dB |
実効選択度(IHF) | normal:55dB narrow:80dB |
イメージ妨害比(IHF) | 85dB |
IF妨害比(IHF) | 110dB |
AM抑圧比(IHF) | 67dB |
ステレオセパレーション(1kHz) | 56dB |
周波数特性 | 20Hz~15kHz +0.3 -0.6dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
ミューティングスレシホールドレベル | 4.4μV/24.1dBf |
アンテナ入力インピーダンス | 75Ω不平衡 300Ω平衡 |
出力信号レベル | 600mV/2.2kΩ |
Rec cal出力レベル | FMの約50%変調相当(約333Hz) |
<AMチューナー部> | |
受信周波数 | 522kHz~1,611kHz |
実用感度 | 20μV(外部アンテナ) |
全高調波歪率 | 0.3% |
SN比 | 50dB |
選択度 | 30dB(±9kHz) |
イメージ妨害比 | 40dB |
IF妨害比 | 65dB |
出力信号レベル | 200mV/2.4kΩ(30%変調時) |
<その他> | |
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 10W(電気用品取締法) 2W(スタンバイ時) |
外形寸法 | 幅435x高さ77x奥行300mm |
重量 | 3.7kg |