KENWOOD L-08M
¥150,000(1台、1980年発売)
解説
プリアンプとパワーアンプ間、アンプとスピーカー間のそれぞれにΣドライブ方式を採用したモノラルパワーアンプ。
L-08Mは立体デザインを取り入れた機種で、ボディ全体をヒートシンク化した機能美のあるデザインを採用しています。
Σドライブ方式を採用しており、スピーカーとのΣ結線が可能です。
Σドライブ方式はスピーカーのコーン紙(ボイスコイル)が動くことによって発生する逆起電圧による歪を防ぐために考案された方式で、4本のケーブルによってこれまでアンプ内で完結していたNFBの考え方をスピーカーの入力端子まで拡大しており、ケーブルもスピーカーの入力端子もアンプの内部配線の1つとして取り込むことでスピーカーの歪を抑えています。この方式により3mΣケーブル先端でダンピングファクター15,000というケタ違いの高性能を実現しています。
まず、スピーカーの+側とパワーアンプの帰還ポイントを結ぶ独自のΣケーブルを設置し、スピーカーの磁気回路が引き起こす逆起歪をはじめ様々な歪をスピーカーの入力端子で発生させないように制御しています。また、−側にもΣケーブルを設置して−側ケーブルもアースポイントと電源ループを分離しています。これによりスピーカーの入力端子とアースポイントの電位差をなくしています。
L-08Mではプリアンプとパワーアンプ間でのΣ結線が可能です。
従来のセパレートアンプではトランスの巻線間には様々な容量があり、高周波領域では一次側と二次側が完全に静電結合しています。また、プリアンプの一次側とパワーアンプの一次側はACコードを通して結線されているのと同じ状態となります。さらに屋内配線が長々と引き回されている家庭内AC電源はかなり高いインピーダンスを持ち、パワーアンプがスピーカーをドライブする時に電圧ドロップなどを引き起こし、二次側電圧を変動させています。この静電結合及び電圧変動による電磁結合は、パワーアンプの電源トランス→プリアンプの電源トランス→プリアンプのアース→パワーアンプのアース→パワーアンプの電源トランスという電流ループを作り上げています。このループに流れる電流によりアース間接続ケーブルに発生した電位差はパワーアンプに入り増幅され、聴感上無視できないレベルの歪となってスピーカーに入力されます。
Σ結線ではアース・アース間のΣケーブルは電源トランス間の相互干渉によって発生する電源ループ専用のバイパスとして働き、信号系に影響を与えません。このためプリとパワーを接続した際にアース・アース間の電位を合わせるというセパレートアンプ本来の目的に合った接続ができ、忠実な信号伝送を可能にしています。
電圧増幅段に上下完全対称回路を採用した構成を採用しています。
入力段をワンチップ・デュアルFETソースフォロアで構成し、増幅1段目はワンチップ・デュアルトランジスター・カスコード出力、2段目もデュアルトランジスター差動入力カスコード出力という温度特性に優れた上下完全対称回路となっています。この構成によって超高域までフラットな裸の周波数特性を実現しています。これにより、これまで裸利得が減少することによってスイッチング歪などの発生を許していた高域に十分なNF量を確保することができ、全帯域にわたって驚異的な低歪率を得ています。また、トランジェント特性も大幅に改善され、TIM歪も抑えています。
超大型チムニー型放熱器を採用しており、170Wのハイパワーが出す熱量を効率よく放射しています。
また、非磁性アルミダイキャスト製とすることでマグネティックディストーションを大幅に改善しています。
パワーアンプの入力は入力端子のホットとアース間に入力され、出力はスピーカー端子とアース間から供給されます。従来のパワーアンプでは出力をコントロールするNFループのアース端と入力のアース端を共通化していました。そのため入出力のアース間にある種の電流が流れ、ダンピングファクターや歪の劣化を引き起こしていました。
Σドライブ方式はホットとアースともに直接スピーカーの入力端子から帰還をかけているため、入出力のアース間には負荷電流に対して十分無視できる程度の微小電流しか流れません。このため、信号経路は電流による干渉を受けず、入力波形と相似な優れた出力波形が得られます。
強力なエネルギーが必要な電力増幅段の電源と、定電流・微小電流動作の電圧増幅段の電源を基本のトランスを含めて完全分離しています。これにより電源回路を介しての電力増幅段からA級増幅段への干渉が無くなり、純粋な信号を後段へ伝えています。
L-08Mには別売りで専用電源トランスL-08PSが販売されていました。
L-08PSは内蔵電源と同容量の260VAという大容量トランスを内蔵した強化電源トランスで、ワンタッチコネクターを用いて何個でも追加できる積み上げ方式となっています。これにより520VA、780VA、1040VA・・・と電源部の容量を増やしていくことができ、音質を向上させることができます。
L-08PSの追加によってL-08Mのパワーアップは8Ωで220W(1個)、240W(2個)、250W(3個以上)となります。
機種の定格
型式 | モノラルパワーアンプ |
<オーディオ特性(Power in →SP out)> | |
定格出力 | 170W(8Ω、10Hz~100kHz、歪率0.02%) 250W(4Ω、1kHz、歪率0.002%) |
全高調波歪率 | 0.002%(定格出力時、20Hz~20kHz) 0.002%(1/2定格出力時、20Hz~20kHz) 0.0005%(定格sy痛力時、1kHz、8Ω) |
混変調歪率 60Hz:7kHz=4:1) |
0.001%(定格出力時、8Ω) 0.001%(1W出力時、8Ω) |
周波数特性 | DC~500kHz -3dB |
SN比 | 120dB |
ダンピングファクター | 20,000以上(55Hz) 15,000以上(Σケーブル3m先端) |
ライズタイム | 0.7μs |
スルーレート | ±170V/μs |
入力感度/インピーダンス | 1V/50kΩ(IHF規準出力時) |
<電源部その他> | |
電源コンセント | 電源スイッチ非連動:1系統(300W) |
電源 | AC100V、50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 250W(電気用品取締法) |
外形寸法 | 幅185x高さ235x奥行369mm |
重量 | 12.5kg |
付属 | 5mアース線 15m電源用リモートコード |
別売:専用電源L-08PS(1台、¥28,000) | |
外形寸法 | 幅140x高さ123x奥行358mm |
重量 | 6.8kg |