オーディオの足跡

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TA-N88の画像
 解説 

デジタル技術を駆使したPWM方式(パルス幅変調方式)やPLPS(パルスロック電源)を搭載した高級ステレオパワーアンプ。

TA-N88には、PWM(Pulse Width Modulation)方式を採用しています。
従来のオーディオ用パワーアンプに用いられているアナログ増幅手法は、電力増幅素子の出力側を負荷(スピーカー)と電源の間に挿入し、素子の内部抵抗の変化によって負荷に流れる電力を取り出しています。これに対し、PWM方式はパルス信号を扱うため、増幅素子のON/OFFの動作で出力を取り出すことができます。
アナログ増幅器では増幅素子が抵抗の役割をしていますが、PWM方式では増幅素子がスイッチとして働きます。このため、アナログ増幅器で発生する増幅素子による電力損失が原理上ありません。実際には増幅素子の抵抗値がゼロではないため、80%~90%の効率となります。
このデジタルアンプを実現させるためには、オーディオ信号をデジタル信号に変換する必要があります。例えば20kHzのアナログ信号を増幅する時には、この信号で500kHzのキャリア(搬送波)を変調し、デジタル信号(PWM波)に変調します。この500kHzのデジタル信号(パルス波)の波形幅は、アナログ信号のレベルに比例して変化します。
回路上では、増幅素子が2μsec(500kHz)の間隔でON-OFF動作を行い、さらにアナログ信号のレベルに応じて増幅素子のON-OFF時間を変化させています。このため、この増幅素子のONの時間と加わる電源電圧の積が出力となります。そして、この電力増幅されたデジタル信号をローパスフィルターを通して、元のオーディオ信号に戻しています。

TA-N88のPWMアンプ部は、入力高速アッテネーター、キャリア発振回路、積分回路、高速コンパレーター回路、V-FETゲートドライブ回路、V-FETスイッチング回路、ローパスフィルターで構成されています。

入力高速アッテネーターは、FETを抵抗素子として用いたアッテネーターです。誤って負荷をショートさせてしまった時や、過大入力がアンプに加わった時などに、出力段のV-FETに流れる電流が定格オーバーにならないように、1μsec以下の応答速度で入力を減衰させ、アンプを保護しています。

キャリア発振回路では、コルピッツ発振回路によって作った500kHzの正弦波を、差動アンプを通しデューティーのそろった方形波に変換しています。そして、L/Rch用それぞれにエミッタフォロワのバッファアンプを介し、キャリア(搬送波信号)として送り出しています。

積分回路では、注入されたオーディオ信号とキャリア信号(方形波)を、この回路で出力信号から引き算(積分)しています。このため、積分回路はオーディオ帯域からキャリアの高周波帯域まで(DC~数MHz)という、非常に広帯域の周波数特性が要求されます。

高速コンパレーター回路は、極めて速い応答特性が要求されるため、ICによって構成されてます。このICは、差動アンプの3段シリーズという構成で、1mV以下の入力電圧レベル差で動作し、応答時間も20nsec(1/50,000,000秒)以下という速さで方形波出力(PWM波)を取り出します。

V-FETゲートドライブ回路では、PWM変調波の出力約8Vp-pを、終段の電力増幅に用いられるV-FETのゲート駆動に必要な40Vp-pの方形波電圧まで増幅しています。

V-FETスイッチング回路は、大電力スイッチング用として新開発されたV-FETをチャンネル当り4個使用したパラレルプッシュプル回路で構成されています。このV-FET素子により、50nsecで160V 10Aにも及ぶ大電力をスイッチングすることができています。

ローパスフィルターは、パルス幅変調された信号からオーディオ信号成分のみを取り出す働きをしています。この回路には、コイルとコンデンサーによる低損失LCタイプのフィルターを用いています。

電源部にはパルスロック電源(PLPS:Pulse Locked Power Supply)を採用しています。
この電源の動作原理は、まずAC100Vをダイレクトに整流し、この直流を20kHzのパルスに変換、高周波トランスで変圧し、再び整流してアンプの電源電圧を得るしくみとなっています。さらに、アンプ部の出力変動にともなう電圧変動を抑えるため、その変動をパルス幅に変換して制御するチョッパー方式を用いた定電圧ロック回路も挿入されています。

パルスロック電源は、ラッシュカレント抑圧回路、1次整流回路及び平滑回路、チョッパー式定電圧回路、20kHzパワーオシレーター、パルス幅コントロール回路、フェライトコアトランス、2次整流回路及びLC平滑回路で構成されています。
1次整流回路では、AC90V~130Vの入力をブリッジ整流してDC130V~168Vを得ています。DC入力の場合は、ダイオードの極性に沿ってそのまま伝送します。
20kHzパワーオシレーターでは、大出力スイッチングトランジスタを4本用いた自励形のブリッジ発振回路によって、20kHzの大電力パルスを安定に発振させています。
フェライトコア・トランスは、20kHzのパルスを伝送するトランスとして使用されてます。20kHzという高い周波数においても、低損失、高透磁率、高い飽和磁束密度を持つフェライトコアを用いているため、従来の50Hzで用いるパワートランスに比べ、体積にして55倍のパワー伝送能力を持っています。さらに、巻線のトータル線長が短くなるためレギュレーションも優れています。
2次整流回路では、各アンプステージに必要な直流電圧を供給しています。1次側がパルス幅制御方式により定電圧化されているため、安定した電源出力が得られています。
パルス幅コントロール回路では、20kHzのパワーオシレーターにより得られた方形波を三角波に変換し、基準電圧とのレベル比較を行い、チョッパー方式定電圧回路をコントロールするためのパルスを得ています。
チョッパー方式定電圧回路では、パルス幅コントロール回路からのパルスにより1次整流回路で得られたDCを電子的にON-OFFすることで一定の電圧を保っています。

パルスロック電源では、パルス整流方式を採用しているためリップルが殆ど無いという特長を持っています。また、高い周波数なので効率が良いことや、パルスロックしているため電源電圧が極めて安定しているなどの特長を持っています。

PWMアンプ部及びPLPS電源部は、各々500kHzと20kHzという高い周波数を扱っています。このため、各々の周波数やその高調波が発生して相互干渉したり、外部機器に影響を与えてしまいます。
これを防ぐため、TA-N88では、AC入力、スピーカー出力、インプット端子などに対し、高調波をトラップするフィルターを装備しており、周波数がリークすることを防止しています。
また、アルミ全体がアルミダイキャスト製のシールドケースになっているため、高周波パルスが外に漏れません。

機種の定格
型式 ステレオパワーアンプ
回路方式 アンプ部:パルス幅変調(PWM)方式、キャリア500kHz
電源部:パルスロック電源
実効出力 160W+160W(20Hz~20kHz、両ch駆動、8Ω、高調波歪率0.5%)
高調波歪率 0.5%以下(実効出力時)
混変調歪率 0.1%以下(実効出力時、60Hz:7kHz=4:1)
ダンピングファクター 20(1kHz、8Ω)
残留雑音 100μV以下(8Ω、Aネットワーク)
SN比 110dB以上(クローズドサーキット、Aネットワーク)
周波数特性 5Hz~40kHz +0.5 -1dB(8Ω負荷時)
入力感度/インピーダンス 1.4V(実効出力時)/50kΩ
出力端子 8Ω~16Ωのスピーカーに適合
使用半導体 V-FET:8個
FET:10個
IC:2個
トランジスタ:68個
ダイオード:47個
電源 AC90V~130V、50Hz~400Hz
DC110V~140V
消費電力 135W
外形寸法 幅480x高さ80x奥行360mm
重量 11kg
付属 電源コード