Pioneer F-120
¥45,000(1982年発売)
解説
パイオニアのチューナー技術を注ぎ込んで開発したD.D.(デジタル・ダイレクト)デコーダーを搭載したFM/AMチューナー。
検波、復調をデジタルで行い、歪や雑音の発生を根本から断ち切るため、パイオニア独自のD.D.デコーダーを開発・採用しています。
この回路は、パルス変換器で1.26MHzのパルスに変換された信号をそのまま一気にL/R分離のための掛算器に送り、19kHzパイロット信号から作った38kHzのサブキャリアで掛算するシンプルな方式で、FM信号はパルス変換器以降、出力までデジタル信号のままとなるため、SN比の劣化や歪の発生が抑えられています。
また、信号欠損や歪の原因となるフィルターも必要ありません。
さらに掛算されるサブキャリアは綺麗な正弦波のため、オーディオ信号にも悪影響を及ぼすこともなく、クリーンで純度の高い信号を取り出すことができています。
このD.D.デコーダーはFM信号と(アナログ信号)とサブキャリア(矩形波)を掛算して復調するというチューナーの原理に注目し、FM信号をパルス波にしサブキャリアを正弦波にして掛算すれば結果は同じであるという、大胆な発想から生まれた方式で、これによりSN比、歪率、セパレーション、各種の妨害排除能力のいずれでも優れた特性を実現しています。
音質向上のため、パーツを厳選して採用しています。
まず、D.D.デコーダーのパルス変換以降出力部までは完全LCフィルターレスとし、LCフィルターそのものに起因した歪をなくしています。
また、最終段のローパスフィルター部には、これまでのコイル使用のパッシブフィルターに変え急峻な特性を持つアクティブフィルターを使用し、コイルなどによる音質劣化を防いでいます。
さらに、高周波部に低歪の半導体コンデンサーを開発・採用したほか、銅箔スチロールコンデンサーや、整流特性の良いファーストリカバリーダイオードを採用しています。
また、配線材には無酸素銅線を使用しています。
フロントエンド部には、RF相互変調特性の向上を図りリニアフロントエンドを採用しています。
これは同調素子にツインバリキャップを採用したほか、独自のバランスホールドコンデンサー方式により、高い受信性能を実現しています。
また、RF増幅素子には素子としての特性を高めたID MOS FETを採用するなど、徹底してRF相互変調特性の向上に力を注いでいます。
さらに、新開発のFETバランスドミキサーを搭載し高安定度を実現したほか、イメージ妨害などの妨害排除能力も高めています。
そして、アンテナ側の周波数とローカル側の発振周波数との間にズレが生じ、歪となって音質を劣化させている事にも着目し、両周波数間を常にリニアな関係に保ち歪の発生を抑えるために新開発のトラッキングオシレーター回路を搭載しています。
IFの初段アンプにはMOS FETをパラレルで採用し、高利得と高SN比を獲得しています。
また、検波段以降(D.D.デコーダー)に信号を送る際の周波数コンバート部(第2ローカルオシレーターで1.26MHzに変換)の発振回路には、水晶発振回路を採用して安定性とSNを高めると同時に温度や湿度の環境変化によるドリフトをなくしています。
さらに、常に最高水準のクオリティが得られるようにIFバンドの2段切換えを採用しています。
クォーツシンセサイザー方式のPLL回路では、従来では基準周波数を12.5kHzにしており、可聴帯域内に残留ノイズとして音質を劣化させていましたが、独自のパルススワロー方式により基準周波数を25kHzに設定し、可聴帯域外へおいやることにより、残留ノイズの原因を解消しています。
デジタルコントロール信号の伝送方式にはスタティックコントロール方式を採用しています。
一般的には複雑な信号伝送をより簡略化するために一本の信号線に複数の情報をのせて送るダイナミックコントロール方式が採用されていましたが、情報兼ね合わせ時に発生するノイズを防ぐために一本の信号線には一本のデーターしかのせない方式を採ることで、SNの劣化を防いでいます。
プリセット局はFM+AMランダム8局プリセットとFM/AM各8局プリセットの切換えスイッチを搭載しています。
リアパネルのスイッチひとつで、どちらにも切換えて使える便利な設計となっています。
AM部ではアンテナにループ型アンテナを採用し、ワイドレンジセラミックフィルターや9kHzノッチフィルターなど、素子や回路にも配慮がされています。
機種の定格
型式 | D.D.デコーダー搭載FM/AMチューナー | ||||
<FMチューナー部> | |||||
S/N比50dB感度 | mono:1.8μV、新IHF 16.2dBf stereo:21.0μV、新IHF 37.7dBf |
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実用感度(Narrow、75Ω) | mono:0.95μV、新IHF 10.8dBf | ||||
SN比(80dBf入力時) | mono:96dB stereo:88dB |
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高調波歪率 |
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キャプチャーレシオ | Wide:0.8dB Narrow:2.5dB |
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実効選択度 | Wide:30dB(400kHz) Narrow:60dB(300kHz) |
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ステレオセパレーション | Wide:65dB(1kHz)、50dB(20Hz~10kHz) Narrow:40dB(1kHz)、40dB(20Hz~10kHz) |
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周波数特性 | 20Hz~15kHz +0.2 -0.8dB | ||||
イメージ妨害比 | 80dB | ||||
IF妨害比 | 100dB | ||||
スプリアス妨害比 | 90dB | ||||
AM抑圧比 | 70dB | ||||
サブキャリア抑圧比 | 60dB | ||||
ミューティング動作レベル | 5μV(25.2dBf) | ||||
アンテナ入力インピーダンス | 300Ω平衡型 75Ω不平衡型 |
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<AMチューナー部> | |||||
実用感度 | バーアンテナ:55dBμ/m 外部アンテナ:15μV |
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選択度 | 30dB | ||||
SN比 | 50dB | ||||
イメージ妨害比 | 40dB | ||||
IF妨害比 | 65dB | ||||
<総合> | |||||
出力レベル/インピーダンス | FM(100%変調):650mV/900Ω AM(30%変調):150mV/900Ω |
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電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz | ||||
消費電力 | 14W | ||||
外形寸法 | 幅420x高さ61x奥行317mm | ||||
重量 | 4.0kg |